「夏も近づく八十八夜」という歌詞をご存じでしょうか?
『茶摘み』という歌で、明治45年(1911年)に初めて『尋常小学唱歌(三)』という小学3年生の歌の教科書に登場し、昭和17年(1942年)には一度掲載されず消えてしまいましたが、平成4年(1994年)に再び小学3年生で習う共通教材として採用されている曲になります。
そんな親しまれてきた曲の歌い出しですが、歌は知っていても、「八十八夜」の意味は分からないという人も多いですよね。
そこで、この記事では、
- 八十八夜の意味と由来
- 八十八夜とお茶の関係
- 八十八夜の行事
- 2022年(令和4年)の八十八夜はいつ?
について解説・紹介していきます。
八十八夜(はちじゅうはちや)の意味とは?
「八十八夜」とは、『立春の日から数えてちょうど88日目』のことを言います。
うるう年があることから、その年によって日にちが若干変わりますが、大体毎年5月2日頃が八十八夜になります。
雑節となっている八十八夜
日本で旧暦が使われていた時代、季節は春・夏・秋・冬の4つではなく、24の季節で考えられていました。
この24の季節を「二十四節気(にじゅうしせっき)」と言います。
そして、暦には二十四節気以外に、季節の変化をより分かりやすくするため、「雑節(ざっせつ)」という生活の中から自然発生的に生まれた民俗行事・年中行事が記されるようになりました。
二十四節気は、中国から伝わった暦ですが、「雑節」は、日本人の生活文化から作られた日本独自のものです。
主な雑節としては、
『土用・節分・彼岸・社日・八十八夜・入梅・半夏生・二百十日・二百二十日』
があります。
ちなみに、二十四節気では、立春から数えて88日目は「穀雨(こくう)」の季節となります。
「穀雨」は、春の節気のいちばん最後で、穀雨が終わる頃に八十八夜を迎えます。
二十四節気については、下記に『二十四節気とは?』の記事で詳しく解説していますので、よろしければご覧ください。
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八十八夜の由来とは
なぜ、「雑節」に八十八夜が取り入れられたのかというと、農業をする人が多かった昔の日本では、ちょうどこの頃に種まきや田植えの準備、茶摘みなど春の農作業が行われていたからです。
八十八夜から少しすると二十四節気でいう「立夏」になるため、昔の人はこの時期を『夏の準備を始める目安』ととらえていたのです。
また、「八」の字は、現代でも末広がりで縁起がいいと言い、車のナンバーに入れている人も多いですよね。
その八の字が二つも入っている八十八夜は、それだけに縁起のいい日と考えられていました。
加えて、「八」「十」「八」の3つの字を組み合わせると「米」という字に見えますね!少し強引ですが、分かりますか?
そのため、八十八夜は、農業に携わる人びとにとって『五穀豊穣を願う日』として大切にされてきたようです。
八十八夜に「夜」がついている理由
では、なぜ立春から数えて88日目を、「夜」という字を付けて「八十八夜」と呼ぶようになったのでしょう?
日本では昔、月の満ち欠けを基準にした『太陰暦』というものが使われていました。
月の満ち欠けを見て日にちを数えていたため、その頃は「夜」を基準に考えていたわけですね。
月の満ち欠けの周期は約29.5日です。これを3回繰り返すと、29.5日×3=88.5日となります。
そのため、立春から月の満ち欠けを数えて3周目(約88.5日)がちょうど収穫時期にふさわしいと判断していたのでしょう。
この太陰暦による考え方により、88日目=八十八「夜」と呼ばれているのではないかと言われています。
また、当時は88日目の夜の月の状態を見て、種まきや田植えをするか決めていたことから、八十八夜となったという説もあります。
どちらにしても、昔は月が生活にとても密着していたのです。
八十八夜とお茶の関係とは
「八十八夜の新茶を飲むと病気にならない」や「八十八夜に摘まれたお茶を飲むと長生きする」など言われているのですが、実は八十八夜とお茶には深い関係があるようです。
なぜそのように言われるかというと、理由はその成分にあり、
『お茶の新芽に含まれる成分は、八十八夜の頃のものが一番豊富』とされているからになります。
お茶の葉は寒い時期にゆっくりと養分を蓄えて、春になると少しずつ芽を出し始めます。
そのため、早く芽が出た新芽で作った新茶(一番茶とも言います)は、その後に摘まれる茶葉よりも栄養価やうまみ成分が一番多く含まれているのだそうです。
この健康に良い成分は、ビタミンCやテニアン、アミノ酸といったもので、新茶はこれらがたっぷり含まれているので苦みが少なく、良い味わいのお茶になるとされています。
古くから新茶は初物、縁起が良い物として、飲むことで「風邪をひきにくくなる」、「病気にかかりにくくなる」と言われているのはその栄養分のおかげと言えますね。
ちなみに、日本茶の種類は製造工程の違いで区別され、新茶のうち新芽が開きはじめた頃から20日間ほど藁やヨシズで日光を遮り育てた茶葉が「玉露(ぎょくろ)」となり、「二番茶」は6月、「三番茶」は7月上旬となるそうです。
茶摘みの歌と八十八夜
冒頭でも少し、歌の『茶摘み』について話題にしましたが、『茶摘み』の歌に八十八夜が使われているのは、八十八夜に見られる茶摘みの光景を歌にしているからになります。
改めて歌詞を確認してみましょう。
- 夏も近づく 八十八夜
野にも 山にも 若葉が茂る
あれに見えるは 茶摘みじゃないか
あかねだすきに 菅(すげ)の笠(かさ) - 日和(ひより)つづきの 今日このごろを
心 のどかに 摘みつつ 歌う
摘めよ 摘め 摘め 摘まねばならぬ
摘まにゃ 日本の 茶にならぬ
こちらの歌は、京都府の宇治田原町(うじたわらちょう)の茶摘み歌が由来となって作られたのではないかと言われているようです。
また、宇治の周辺地域にも同じような茶摘みの歌があり、伝承されているそうですよ。
ちなみに、茶摘みの歌の歌詞の意味は、下記の通りです。
- 夏が近づいてきた5月の初めに 野原にも 山にも 若葉がたくさん出てきている あそこに見えているのは 茶摘みをしている人だろうか 茜(あかね)色のたすきをつけて 菅の笠をかぶっている
- 毎日 晴れの日が続いている この頃は 落ち着いた心持ちで 葉を摘みながら 歌うよ 摘みなさい 摘みなさい 摘みなさい 摘まなければならない 摘まないと日本のお茶にならないのだから
この『茶摘み』の歌が由来となり、「八十八夜」にお茶摘みのイメージが定着したと言われています。
八十八夜の行事
八十八夜は、春から夏に季節が移り変わる節目の日となっていて、八十八は末広がりの縁起の良い数字ということもあり、衣替えなど、『夏の準備をするにも良い日』とされていました。
八十八夜の日に食べる行事食などはあまりないようですが、新茶の季節に合わせた和菓子や、近年人気の抹茶デザートなどを提供するお茶屋さんやカフェがあるそうです。
また、お茶の産地では新茶にちなんだイベントを行っているところもあり、埼玉県狭山市では「八十八夜新茶まつり」というものが行われます。
新茶パックや茶の苗木の無料配布、新茶の天ぷら試食などが楽しめるそうですよ。
京都府宇治市では「八十八夜茶摘みの集い」が行われています。
こちらでは実際に茶摘みの体験ができたり、ホットプレートによる製茶体験などが楽しめるそうです。
この季節ならではのイベント、ぜひ行ってみたいものです。
2022年の八十八夜はいつ?
立春はだいたい2月4日ですので、88日後は毎年5月2日頃となります。
※閏年には2月29日が1日増えますので計算には注意してくださいね。
2022年の立春は、2月4日(土)のため、
2022年の八十八夜は『5月2日(月)』となります。
このころに言われる言葉として、「八十八夜の別れ霜」や「八十八夜の泣き霜」というものがあります。
八十八夜頃には急に気温が下がって霜が降り、農作物に被害が及ぶことがあるため、農家ではその被害に悩まされてきたそうです。
また、一般的には霜が発生するのは八十八夜ごろまでとされ、これ以降は降らないと言われています。
八十八夜が過ぎれば気候も安定することから、八十八夜は昔から農作業の目安とされ、農家ではこの頃から本格的に農作業に取り掛かる日とされてきたわけですね。
しかし、「九十九夜の泣き霜」という言葉もあり、5月半ばまで大きな遅霜が発生する地域もあるようです。
八十八夜前後は農作業を行ううえで、油断ならない時期だったことが分かりますね。
まとめ:八十八夜とは立春から88日目、その年の新茶が採れる時期のこと
- 「八十八夜」とは立春の日から数えてちょうど88日目のこと
- 2022年八十八夜は、5月2日(月)
- 「八十八夜」の「夜」は夜に月の満ち欠けを見て日にちを判断していた太陰暦の考え方が有力
- 「八十八夜」は、日本人の生活文化から生まれた「雑節」のうちの一つ
- 「八」の字は末広がりで縁起がいいとされるため、二つも入っている八十八夜は縁起のいい日と考えられていた
- お茶の新芽に含まれる成分は八十八夜の頃のものが一番豊富で、「八十八夜の新茶を飲むと病気にならない」や「八十八夜に摘まれたお茶を飲むと長生きする」と言われいる
いかがでしたでしょうか。
平安時代に最澄などの僧が中国からお茶の種を持って帰ったのが日本でのお茶の始まりで、昔は貴族など限られた人しか口にできない高級品であり、当初は薬として飲まれていたそうです。
そして、実は日本茶とウーロン茶、紅茶は同じ茶葉で、加工の仕方が異なるだけなんだそうです!
日本、中国、イギリスでお茶の文化がそれぞれなのもお茶の魅力と言えますね。
ここまでご覧いただき、ありがとうございました。