日本では、「初物を食べると縁起がいい」と言われ、初競りでは、毎年驚きの値段で取引され、中には「ブドウ1房に100万円以上の値段が付いた」なんてこともありました。
この初物を好む文化は、江戸時代から根付いてきたと言われますが、なぜ初物を食べると縁起がいいと言われるのでしょう。
また、初物を食べることで『ご利益がある』ともされていますが、「どのようなご利益があるのかはよく分からない」といった方も多いと思います。
そこで、この記事では、
- 初物とは
- 初物のご利益
- 『初物七十五日』のことわざの意味
- 初物を食べる時の方角
- 初物四天王とは
について解説・紹介していきます。
初物とは?
「初物(はつもの)」とは、
『シーズンを迎えて初めて漁れた魚介類や、その年初めて収穫された農作物のこと』を意味します。
近年では冷凍技術が向上し、一年を通していつでも美味しい食材に巡り合えることから、旬の食べ物を意識することも少なくなってきましたが、それでも食材には一番美味しいとされる「旬の時期」が存在しますよね。
実は「初物」と「旬の時期」は異なり、旬の時期というのは初物より少し時期が進んだ頃に採れるもので、これを『最旬(さいしゅん)』と呼んだりもします。
最旬の時期に採れる食材は、初物に比べて収穫量が増えるため、お財布にも優しく、また栄養価や味わいの面でも優れているとされています。
初物のご利益
しかしながら、初物には「生気がみなぎっている」とされ、『食べれば新たな生命力が得られる』と考えられてきたようです。
そのため初物は、江戸時代には特に高価で、最初に口にできたのは朝廷や有力な武家のような上流階級だけだったと言われています。
『初物七十五日』のことわざの意味とは?
「初物七十五日(はつものしちじゅうごにち)」という、ことわざをご存知でしょうか。
これは、『初物を食べれば、七十五日長生きできる』という意味なのですが、実はある死刑囚の話が起源となったようです。
初物七十五日の由来のお話
時は江戸時代にさかのぼります。
この頃、死刑が言い渡された罪人には、最後に食べたいものを聞き、それを刑の直前に与えるといった決まりがありました。
そこで、ある一人の罪人は「時期外れの食材で作る料理」を要望したそうです。
時期外れとはいえ、最後に罪人の要望を叶えることが決まりでしたので、刑の先延ばしをすることになったのですが、その初物が出るまでに七十五日かかりました。
そのため罪人は、予定よりも七十五日長く生き延びることが出来たそうです。
ちなみにこの話は、死刑囚が一日でも長く生きるために知恵を働かせたとも言われています。
この出来事以来、庶民の間で「初物を食べると七十五日長く生きられる」と考えられ、それが現在まで続く言い伝えとなったのだそうです。
初物を食べるときの方角とは?
「初物を食べたら、ある決まった方角を向いて笑え」と言われた経験はありませんか?
あまり聞いたことがないという人が多いようですが、江戸時代から始まった風習だと言われています。
この方角は地域によっても異なるのですが、西か東のどちらかになるようです。
西の方向を向く
「西」といわれるのは、主に関東地方になります。
これは仏教で、阿弥陀様が西にいらっしゃると考えられているからだそうです。
また、「初物を関西地方より先に食べられたことを自慢するため」といった説もあります。
東の方向を向く
「東」といわれるのは、主に関西地方になります。
太陽が昇る方向を向いて笑うことで、日頃の恵みに感謝することができると考えられているからだそうです。
また、こちらも「初物を江戸よりも先に食べられたことを自慢するため」といったことが言われています。
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初物四天王にあたる食材とは
日本人にとって初物は、江戸時代から大切にされてきた文化ですが、中でも『初物四天王』と呼ばれる食材があります。
その中の1つが「鰹(かつお)」です。鰹の旬は、春と秋の年に二度訪れるのですが、なかでも「初鰹」と呼ばれる春先に収穫されるものは、昔から希少価値が高く、江戸時代では高貴な身分の方しか食べることができなかったようです。
ちなみに、「初鰹」については、下記の『初鰹とは?』の記事で詳しく紹介していますので、よろしければご覧ください。
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そして、同じく魚で四天王に君臨している2つ目の食材が「鮭」です。
秋の味覚として重宝されていた鮭は、初物として秋口になると楽しまれていました。
最近では海外産や、冷凍された鮭が年中安定して供給されることから、旬を意識しなくなった代表食材にもなってきたようです。
3つ目は、現代でも初物としての価値が高いとされる「松茸」です。
欧米人にとっては、未だに受け入れられないとも言われる松茸ですが、日本では古くから好まれており、「初きのこ」として、秋口に楽しまれていたようです。
4つ目は、「茄子(ナス)」です。
現代の感覚からすると、スーパーや市場で年中見かけることから、四天王としては疑問に思う方もいるかもしれませんね。
しかしながら、初夢で見ると縁起がいいものとして「一富士 二鷹 三茄子・・・」とあるように、茄子は昔の人にとって、非常に縁起のよい食べ物だったようです。
そのため茄子は、農家さんが躍起になって栽培技術を研究し、生産効率を高めることでより早く市場へ流通させることを目指したそうです。
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まとめ:初物は、食材に感謝する気持ちから生まれた
- 初物とはシーズンを迎えて初めてとれた食材のこと
- 江戸時代、初物のおかげで75日長く生き延びた囚人がいた
- 初物四天王とは、「鰹」「鮭」「松茸」「茄子」のことをいう
- 初物を食べるときに笑う方角は、地方によって異なる
いかがでしたでしょうか。
現代では、栽培技術の進歩や、輸入食材などのおかげで、国内では多くの人が食べ物に困ることはなくなりました。
しかしながら農業革命以前は、天候不良や作物の病気などが原因で、満足に食事を頂くことができなかった人も多かったようです。
そのため、昔の日本人は毎日食べ物にありつけたことに心から感謝していたそうです。
そして、それが初物ともなれば喜びと感謝の気持ちはより一層大きいものでした。
近年では、日本人の幸福度が下がってきているとも言われていますが、日々の食べ物に感謝する気持ちを少し持つことで、幸せな気持ちに一歩近づけるかもしれません。
ここまでご覧いただき、ありがとうございました。