四季があり、一年を通して気候が変化する日本では、一年中、多くの食材が「初物」や「旬の食べ物」としてスーパーや市場を賑わせていますよね。
昔から「初物(はつもの)」には、生気がみなぎっており、食べると新たな生命力が得られると考えられ、日本人にとってとても縁起の良い食べ物だとされていたそうです。
とくに3月~7月の時期になると、「初鰹(はつがつお)」が出回る時期でもあります。
たたきにしてポン酢で食べると、とても美味しく、薬味のショウガとも相性抜群ですよね。
ところで、この「初鰹」というのは具体的にどういうものを指すのかご存じでしょうか。
「カツオの寿命はおよそ10年とされているし、具体的にはどういったものを初鰹と呼ぶのか正直よく分からない」といった方も多いと思います。
そこで、この記事では、
- 初鰹の意味とは
- 初鰹と戻り鰹の違い
- 初鰹と戻り鰹の旬の時期は?
- 季語としての初鰹
- 江戸時代に初鰹が高級魚とされていた理由
について解説・紹介していきます。
初鰹の意味とは?
初鰹とは、『新年を迎えてから初めてとれた鰹』のことをいいます。
鰹はもともと太平洋に生息していて、春になると黒潮に乗ってエサとなる小魚を追いかけながら、一斉に北上を始めます。
この鰹は、九州の南方から北海道沖を目指して北上をはじめ、太平洋側の様々な地域で水揚げされることから、『上り鰹』と呼ばれることもあります。
初鰹と戻り鰹の違い
九州の南方から北上する際に初めて捕れる鰹を、『初鰹』と言いますが、その後は北海道から産卵のためにUターンして、南下を始めます。
そして南下を始めて秋頃に捕れる鰹を『戻り鰹』と言います。
戻り鰹は、冷たい北の海でたっぷりとエサを食べて脂肪を蓄えているため、「脂カツオ」「トロカツオ」などと呼ばれることもあるそうです。
初鰹と戻り鰹の味の違いと特徴
ここでは初鰹と戻り鰹の「それぞれの味の違いと特徴」について説明します。
初鰹の味と特徴
「初鰹」は身が引き締まって食感が良く、脂肪分が少ないため、あっさりとした味わいが特徴です。
しかし、初鰹は火を通すと身が硬くなり、パサパサとした食感になる特性もありますので、お刺身などの「生で食べるのがおすすめ」になります。
外側をあぶった鰹のたたきはもちろん、「カルパッチョ」や「刺身を醤油で漬け込んだ丼ぶり」にして食べると、臭みもなく美味しくいただけますよ。
また、鰹のたたきにはよく、「ネギ」や「ショウガ」などの薬味が添えられていますが、その理由は「独特の臭みを消すため」です。
この独特の臭みは、鰹のような回遊魚(泳ぎ続ける魚)に存在する※「ミオグロビン」という物質が原因で発生するのだそうです。
※ミオグロビンとは、鰹のような回遊魚の血中に多く存在し、たくさんの酸素を体内に取り込む役割を果たす物質です。
戻り鰹の味と特徴
「戻り鰹」は、北上したときにエサをたくさん食べているため、脂がのって身がトロトロ、味わいも濃厚なのが特徴です。
戻り鰹もお刺身で美味しく食べることができますが、臭みと脂っぽさを打ち消すために「わさび」を付けて食べるがおすすめです。
また、良質な脂とわさびを一緒にいただくことで、身体の血行を良くする働きもあるそうです。
戻り鰹は脂が乗っていることから、タタキや刺身だけでなく、「ガーリックステーキ」や「竜田揚げ」にしてタルタルソースをかける「南蛮がつお」にしても美味しいようです。
初鰹と違って、生でも加熱しても美味しく食べられるということで、料理の幅も広がりますね!
初鰹は100g当たり約114kcalですが、戻り鰹は約165kcalと脂肪が多いため、ややカロリーは高めです。
しかし、脂肪が多いと言っても、魚の脂肪は身体に付きにくく、健康をもたらしてくれる脂肪でもあるので、ダイエット中でもそれほど気にする必要はなさそうです。
もし鰹を購入する場合は、赤身の色が鮮やかで身が丸々としていて、しま模様がハッキリしている切り身を購入するのが、おすすめとされています。
初鰹と戻り鰹の旬の時期とは
「初鰹」は、南方から北上してくるため、九州南部から順に旬を迎えます。
- 九州南部:2月~3月 頃
- 四国:3月~5月頃
- 静岡:4月~6月頃(静岡県は、鰹の漁獲量が日本一です!)
- 三陸沖:6月~7月頃
「戻り鰹」は、初鰹とは反対に、北から南へ向かって帰ってくるので、北海道とその周辺から順に旬を迎えます。
- 三陸沖:8月中旬~9月頃
- 静岡:8月下旬~9月頃
- 四国:8月下旬~9月頃
- 九州南部:9月頃
昔から俳句の季語として、初鰹が使われてきた
初鰹は古くから日本人に愛されてきた旬の魚のひとつです。
江戸時代中期には、俳人の山口素堂が下記のような句を詠んでいます。
「目には青葉山郭公初鰹」 (目には青葉やまほととぎす初鰹)
この俳句の意味は、「初鰹が高すぎて口にはなかなか入らなかったこと」を皮肉として詠んだ内容だそうです。
「旬の走りの食材を食べることが粋(いき)」だとされた江戸時代、「青葉」も「ほととぎす」も「初鰹」も、当時最も好まれた夏の象徴です。
- 「初鰹」は『初夏』の季語
- 「鰹」は『三夏(初夏・仲夏・晩夏)』の季語
- 「秋鰹(戻り鰹)」は『三秋(初秋・中秋・晩秋)』の季語
ちなみに初鰹と違って、戻り鰹を季語として読んだ俳句はあまりないようです。
江戸時代には、高級魚とされていた初鰹
江戸時代には、『旬の物を食べると寿命が75日延びる』と言われていましたので、その縁起の良さから初物は江戸っ子たちにとても人気があったそうです。
その中でも、「初鰹」は、寿命が750日も延びると言われていただけでなく、「勝つ魚」につうじるとして他のどんな初物よりも大変縁起が良い食べ物とされていたようです。
「初鰹を食べるためなら女房を質屋に入れてでも」という言葉も残っているほど、江戸時代の人々の初鰹に対する想いは凄まじかったみたいですね。
ちなみに当時の初鰹は、今では考えられないくらい高価であったそうです。
当時の1両を現在の価値に換算すると、およそ15万円程ですが、初鰹の値段は(サイズによりますが)1尾(1匹)がおよそ3両。
現在の価値に換算すると、40万円にもなる代物でした。
江戸時代後期で庶民の年収が20~30両とされていましたので、そのうちの3両もする初鰹は、かなりの高級魚だったことが伺えますね。
まとめ:昔から日本人にとって初鰹愛は甚大だった
- 「初鰹」は、その年最初に水揚げされる鰹のこと
- 「戻り鰹」は、北海道沖まで北上した後、戻ってくる時に漁れる、脂が乗った鰹のこと
- 江戸時代から、初物を食べると長生きするとされており、江戸っ子たちの初鰹愛とその値段は凄まじかった
いかがでしたでしょうか。
江戸時代には、今以上に旬のものや、初物を食べるということを大切にしていたことが分かりましたね。
当時は、食べ物をそのまま長期保存する技術もなく、初物を食べることで季節を感じていたことでしょう。
近年では冷凍技術が向上し、昔では旬の時期でしか味わえなかった味をいつでも味わえるようになってきましたが、まだまだ初物を縁起物として、大切に想う日本人の心はあり続けているようにも思います。
今後買い物をする際は、今の旬の食材が何なのか、少し意識したうえで見て回ると、より買い物を楽しめるかもしれません。
ここまでご覧いただき、ありがとうございました。