皆さんは「半夏生」という言葉を聞いたことがありますか?
最近ではあまり使われなくなってきた言葉なので、聞いたことがないという方が多いかもしれませんね。
いったい「半夏生」にはどういう意味があり、どのような風習があるのでしょう。
そこで、この記事では、
- 半夏生とは
- 半夏生という植物
- 雑節と七十二候の半夏生について
- 「チュウははずせ、ハンゲは待つな」とは
- 2022年の半夏生はいつ?
- 半夏生の食べ物や風習の意味
- 京都で有名な「半夏生の庭園」とは
- 半夏生の季語としての使い方
について解説・紹介していきます。
半夏生とは?
まず、「半夏生」の読み方は「はんげしょう」です。
※例外として七十二候では、「はんげしょうず」と読みます。
「半夏生」とは、「雑節(ざっせつ)」または、「七十二候(しちじゅうにこう)」の中の一つで、『半夏(ハンゲ)が生える頃』という季節を表す言葉になります。
半夏生の名前の由来は「半夏」という植物
「半夏生」の名前の由来である「半夏(ハンゲ)」という植物は、サトイモ科の多年草で、漢方薬でも用いられる薬用植物とされていて、別名「カラスビシャク」と呼ばれています。
なぜ「半夏」という名前なのかというと、夏の半ばに花をつけることからその名が名付けられたそうです。
「半夏」は薬草とされる反面、「毒性」があるため、そのまま食べてしまうと舌の痺れや腫れを引き起こしてしまう有毒植物でもあります。
ちなみに、「半夏(カラスビシャク)」の花言葉は『心落ち着けて』になります。
「半夏生」の由来ではない「半夏生」という植物
とてもややこしいのですが、「半夏」とは異なる植物で、「半夏生(ハンゲショウ)」と呼ばれる植物も存在します。
「半夏生」はドクダミ科の多年草で、雑節の「半夏生」とは関係のない植物です。
※「半夏生」は別名「片白草(カタシログサ)」とも言います。
この「半夏生」という植物の名前の由来としては、
- 「半夏生の時期に花を咲かせるため」
- 「葉の一部が化粧をしたかのように真っ白になることから、半化粧と呼ばれるようになった」
という2つの説があります。
ちなみに、半夏生の花言葉は『内に秘めた情熱』・『内気』と2つの意味があるようです。
半夏生の葉が白くなる理由は?
実は半夏生は、通常白い色はしていません。
半夏生の葉が白くなる理由としては、半夏生の「花」と関係があります。
半夏生の花は、花穂(かすい)と呼ばれる形状の花で、花の部分には花びらはなく、花は穂のように長く垂れ下がった形状となります。
しかし、この半夏生の花はあまり目立たないため、受粉をしてくれる昆虫を引き寄せることができません。
そのため、花が咲く時期になると花の周りの葉を白く変化させ、花びらのように見せることで昆虫を集める役割を果たすようになるのだそうです。
そして、花が終わり実を結ぶようになると、再び緑色の葉へと戻ります。
雑節(ざっせつ)の「半夏生」の意味
「雑節」とは、日本の季節に合わせて作られた「暦日(れきじつ)」のことで、主に農作業を行うための大切な目安とされていました。
※暦日とは、暦上で定められた日または期間のことです。
以前は「夏至(げし)」から11日目が「半夏生」とされていたそうですが、現在は『太陽黄経100°の位置に太陽が来る日』が「半夏生」とされており、毎年7月2日頃が「半夏生」となります。
農業において、昔は「半夏半作(はんげはんさく)」と言われ、
『半夏生までに田植えを終わらせなければ、秋の収穫が半分になる』とされてきたそうです。
そのため、「半夏生」は『田植えを終わらせる目安』とされていましたが、田植え後の『休息日』にもなっていたと言われています。
ちなみに、「雑節」については、下記の『二十四節気とは?』の記事の中で詳しく説明していますので、よろしければご覧ください。
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七十二候(ななじゅうにこう)の「半夏生」とは
「七十二候」とは、古代中国で考案された季節の指標となるもので、『1年を72の季節で分けたもの』になります。
「七十二候」は、5日ごとの気象や動植物の変化を基にして作られたもので、日本では中国から伝わった「七十二候」を、日本の風土に合わせて何度か作り変えられたものが用いられています。
七十二候の「半夏生」は、夏至(6月21日頃~7月6日頃)の後半(末候)にあたり、期間としては「温風至(あつかぜいたる)」の前日までの『7月1日頃~7月6日頃』のことを言います。
ちなみに、この七十二候の「半夏生」が由来となり、雑節の「半夏生」が作られたそうです。
「チュウははずせ、ハンゲは待つな」とは
ことわざの中には、「チュウははずせ、ハンゲは待つな」というものがあります。
「チュウ」は「夏至」のことで、「ハンゲ」は「半夏生」のことです。
このことわざは、『田植えを行うのは、夏至を過ぎてからが良く、半夏生に入る前が良い』という意味があります。
時期としては『夏至(6月21日頃)の翌日~半夏生(7月2日頃)の前日までの期間』ということになります。
しかし現在では、技術の進歩により丈夫な苗を早く育てることができるため、1ヶ月早い時期である5月に田植えが行われることが多いようです。
【2022年】の半夏生はいつ?
2022年(令和4年)の「半夏生」は、『7月2日(土)』です。
期間としては、『7月2日(土)~7月6日(水)』が「半夏生」となります。
半夏生の食べ物は?
半夏生は、田植え後の休息日となっていましたが、「田の神様が田植えを見届けて天に帰る日」とされていました。
そのため半夏生の日には、田の神様に無事に田植えが終わったことを感謝し、田の神様にお供え物をしたり、祝宴を開いたりしたそうです。
このことが、半夏生に行事食を食べる由来となったと言われているのですが、地域によって食べるものが違いますので、それぞれ紹介します。
『タコ』(関西地方の風習)
関西地方では、半夏生の時期に『タコ』を食べる風習があります。
タコの足には、吸着力のある吸盤があることから、『稲の根が四方八方に広がり、しっかりと地面に根付いて豊作になってほしい』という願いをこめて「タコ」が食べられるようになったと言われています。
『半夏生サバ』(福井県の風習)
福井県大野市を中心として、7月1日頃の半夏生になると『半夏生サバ(はげっしょさば)』と呼ばれるサバの丸焼きを食べる風習があります。
「半夏生サバ」を食べる風習は、江戸時代からとされており、当時の大野藩主が『農民の疲れを癒やす目的』で鯖を取り寄せて与えたのが始まりだとされています。
『半夏生餅』(奈良県・河内地方の風習)
奈良県・河内地方では、『半夏生餅(はんげしょうもち)』を食べる風習があります。
「半夏生餅」は、「小麦餅」や「はげっしょ餅」・「さなぶり餅」・「あかねこ餅」とも呼ばれますが、小麦ともち米を混ぜ合わせてついたものに、砂糖ときな粉をかけた食べ物です。
二毛作を行っている地域では、田植えの時期は小麦の収穫時期でもあったため、新麦を使った「半夏生餅」を作り、『収穫の感謝・五穀豊穣・田植えの無事』を願って田の神様にお供えしたことが「半夏生餅」の始まりとされています。
『小麦餅(焼き餅)』(関東地方の風習)
関東地方の一部の地域でも、小麦ともち米を使った『小麦餅』を食べる風習があるようです。
「小麦餅」も「半夏生餅」と同様に、『収穫の感謝・田植えの無事』を願って行われる風習だと言われています。
しかし、関東で食べられる「小麦餅」は、奈良県・河内地方で食べられる「半夏生餅」とは違い、きな粉はつけず、焼いて食べるそうです。
『冬瓜』(静岡県の風習)
静岡県では、田植えの時期に『冬瓜(とうがん)』を食べる風習があります。
「冬瓜」は、6月頃~9月頃まで収穫できるウリ科の夏野菜です。
「冬瓜」という名前から、冬の野菜と思ってしまいますが、夏に収穫して冷暗所に置いておくと、冬まで保存ができたことから「冬瓜」と呼ばれるようになったと言われています。
「冬瓜」は、熱を抑える薬用植物として昔から食べられてきた野菜であり、「冬瓜」には水分・カリウムが豊富に含まれているため、『夏バテ改善』に効果があるとされています。
『芋汁』(長野県の風習)
長野県小川村では、半夏生の時期に『芋汁(いもじる)』を食べる風習があるそうです。
「芋汁」は、長芋(山芋)をすり下ろして味付けをした食べ物で、「芋汁」という名前から芋の入った汁物を想像してしまいますが、いわゆる「とろろ」になります。
長芋は昔から滋養のある食べ物とされていて、田植えの疲れを癒やす『疲労回復の食べ物』として食べられていたようです。
また、長野県では、正月料理や節分の時期にも「芋汁」を食べる風習があります。
『うどん』(香川県の風習)
香川県では、田植えの終わった半夏生の時期に、『うどん』を食べる風習があります。
当時の農家では、農作業を手伝ってくれた人達の労をねぎらうため、「うどん」を作って振る舞っていたそうです。
このことが半夏生に「うどん」を食べるようになった由来だとされており、現在では香川県生麺事業協同組合によって7月2日が「うどんの日」と制定されています。
「うどんの日」には、各地で「うどんの日フェア」としてイベントが開催されたり、無料でうどんが振る舞われたりするそうです。
『だぶ』(福岡県・佐賀県の風習)
福岡県や佐賀県の地域では、『だぶ』または「らぶ」と呼ばれる郷土料理を食べる風習があります。
「だぶ」は、地域によって味付けや材料が違うようですが、ごぼうや里芋などの根菜類をさいの目状にして、鶏の出汁や醤油で味付けをした具だくさんの汁物のことです。
なぜ「だぶ」と言うのかというと、「汁がだぶだぶあるから」や「水をざぶざぶ入れて作るから」などと言われています。
半夏生の時期には、無事に田植えを終えたことを祝い、田植えを手伝ってくれた人達に「だぶ」を振る舞って、祝宴が行われていたそうです。
半夏生の「物忌(ものいみ)」の風習とは
半夏生(7月2日頃~7月7日頃)には、一定期間ある物事を避けたり、不浄を避けて家にこもったりする「物忌(ものいみ)」と言われる風習があります。
物忌の風習は様々ありますが、その風習の多くが身を守るための先人の知恵だと言われています。
では、半夏生の物忌の風習をご紹介します。
してはダメなこと
・半夏生には作物の種をまいてはいけない
・半夏生には収穫した野菜は食べてはいけない
・半夏生には竹林に入ってはいけない(竹の花を見ると死ぬ)
・半夏生にはハンゲという妖怪が徘徊する(農作業はしてはいけない)
半夏生に「物忌の風習」が生まれた理由は?
半夏生に「毒が降る」と言われるようになり、このような風習が生まれた理由としては、次のような理由が考えられています。
- 【理由1】
「半夏生」の時期に毒草である「半夏」が咲くのは、天から毒気が降ってくるからだと考えられたこと。 - 【理由2】
「半夏生」の時期は梅雨の後半にあたり、大雨が降る時期であったことから、水質の変化により井戸水が汚染される心配があったこと。 - 【理由3】
夏の過酷な農作業に備えて田植えで疲れ切った身体を休ませるため。
昔は、今のような医学的な知識がなかったため、経験だけが身を守るための判断材料でした。
そのため、半夏生の時期は「毒が降る」として、井戸水を飲まないようにしたり、過酷な農作業を終えたばかりの身体を、半ば強制的に休ませたりする目的があったのではと考えられています。
また、半夏生の時期に降る雨を「半夏雨(はんげあめ)」と言い、大雨になることが多かったことから、大雨による災害から身を守るためという考えもあります。
京都で有名な『半夏生の庭園』とは
京都府京都市東山区小松町にある『臨済宗大本山建仁寺塔頭(りんざいしゅう/だいほんざん/けんにんじ/たっちゅう) 両足院(りょうそくいん)』は、「半夏生の庭園」として有名で、半夏生の花の開花に合わせて毎年「初夏の特別拝観」が行われています。
通常は非公開ということもありますが、茶道藪内流5代目「藪内竹心(やぶのうちちくしん)」が手掛けた「池泉回遊式庭園(ちせんかいゆうしきていえん)」である両足院の「書院前庭(半夏生の庭園)」は、京都府指定名勝とされており、この時期にだけ見られる美しい白い葉の半夏生を見るために多くの人が訪れるそうです。
※名勝(めいしょう)とは、文化財の一つで、芸術的・鑑賞的に価値の高いものに指定されていることを意味します。
半夏生が白く変化する姿と、観音様が救済するために変化するイメージが重なることから、両足院では「半夏生」を大事に育てているそうです。
ちなみに、観音様は人々を救済するために33の姿に変身すると言われています。
池泉回遊式庭園とは
先程、京都府指定名勝となっている「半夏生の庭園」は、「地泉回遊式庭園」と説明しましたが、あまりピンときませんよね。
まず、「池泉庭園(ちせんていえん)」について説明します。
「池泉庭園」は、山や川、海といった自然の情景を、小島や石などを使って表現した庭のことで、主に「池」があるのが特徴になります。
「池泉庭園」には、「回遊式」・「鑑賞式」・「舟遊式(しゅうゆうしき)」と呼ばれる3種類の庭園があり、「地泉回遊式庭園」は、園内を歩きながら鑑賞する方式の庭園のことを言います。
両足院で販売される「半夏生」の和菓子
「両足院」では、半夏生の特別公開に合わせて、『はんげしょうの宝珠』という和菓子を限定販売しています。
半夏生の庭園を鑑賞し、和菓子を持ち帰ることで、観音様の慈悲の心を家でも感じてもらいたいと「はんげしょう宝珠」が作られたそうです。
「はんげしょうの宝珠」は、菓子工房「御菓子丸」で作られた和菓子で、透明な琥珀糖(こはくとう)の中にピスタチオが入った涼しげな和菓子になります。
琥珀糖は、砂糖と寒天で作られた砂糖菓子で、「たべる宝石」と言われるほど見た目が美しく、外はシャリシャリ中はとろっとした面白い食感が特徴です。
「はんげしょう宝珠」は、数に限りがあるようなので、購入したいという方は早めの拝観をおすすめします。
俳句季語としての「半夏生」の使い方
「半夏生」を俳句の季語として使用する場合、次の2つの意味があります。
- 植物の「半夏生」
- 「半夏が生える季節」(時候)
どちらも『夏の季語』(仲夏:芒種~小暑前日まで)を表す季語となっていますが、中には植物と分かってもらえるように「草」の字を「半夏生」の後ろにつけて、「半夏生草(はんげしょう)」としている句もあります。
※毎年「芒種」は6月6日頃、「小暑」は7月7日頃です。
まとめ:半夏生は農家にとって「田植えの終わり」を意味する大切な日だった
- 半夏生は雑節または七十二候の一つで、「半夏が生える季節」を意味する言葉
- 2022年(令和4年)の半夏生は、「7月2日(土)」で、期間としては「7月6日(水)」まで
- 半夏生は、田植えを終わらせる目安となる日であり、農作業の休息日でもあった
- 半夏生には、疲労回復や豊作を願ってタコなどを食べる風習が地域によって様々存在する
- 半夏生には「物忌の風習」が存在していたが、身を守るための先人の知恵であったと考えられている
- 「半夏生」は夏(仲夏)の季語で、時候と植物の2つの意味がある
いかがでしたでしょうか。「半夏生」は梅雨の後半にあたり、半夏と呼ばれる植物が生える頃を表す言葉ということが分かりました。
ちなみに、以前は半夏生にあたる7月2日が「タコの日」として日本記念日協会によって認定されていたそうですが、現在は無くなってしまったようです。
一方、タコの名産地である広島県の三原観光協会が、1996年(平成8年)に8月8日を「タコの日」として制定し、タコ供養やタコ関連のイベントを毎年行っています。
かつて海外では、グロテスクな見た目からタコを「デビルフィッシュ(悪魔の魚)」と呼び忌み嫌っていたり、宗教上ウロコをもたない魚介類は食べてはいけないと禁止されていたりして、タコを食べる習慣が多くの国でなかったようです。
しかし近年では、食に対する健康志向の拡大や日本食ブームなどの影響も相まって、海外でのタコの消費量が増加傾向にあると言われています。
現在、世界全体のタコの消費量の60%が日本と言われていますが、自給率は約30%ととても低いため、このまま世界の消費量が増加していくと、いずれタコが高級食材となる日が訪れるかもしれないそうです。
ここまでご覧いただき、ありがとうございました。