皆さんは、ネットニュースやビジネス書などで、「(原文ママ)」という言葉を見かけたことはありませんか?
「原文ママって誰?」や、「ママと書くのはなぜ?」と困惑する人も多くいらっしゃるようです。
そこで、この記事では、
- 「原文ママ」の意味
- 「原文ママ」の「ママ」がカタカナなのはなぜ?
- 「原文ママ」の使い方
- 「原文ママ」の類語・対義語
- 「原文ママ」の英語表現
について解説しています。
(原文ママ)の意味とは?
『(原文ママ)』の、「ママ」という言葉が紛らわしいことから、「誰かのペンネーム?」と勘違いしてしまう方もいらっしゃると思いますが、「(原文ママ)」というのは人のことではありません。
「(原文ママ)」というのは、「編集用語(校正記号)」の一つで、
『原文の儘(まま)引用』という意味があり、この言葉を省略した形が「原文ママ」となります。
ちなみに、編集業界では、「ママ」だけで表現することの方が一般的なようです。
著作権上「引用」は改変してはならないのが鉄則
引用元の原文に「誤字脱字」がある場合や、「誤った言葉の使い方」などをしていた場合、正しく訂正して引用したいところですが、
『同一性保持権(どういつせいほじけん)』という著作権の侵害にあたる恐れがあるため、引用者は著作者の同意が無ければ、勝手に文章の表現を改変したり、訂正したりして引用することはできません。
例えば、タレントのXさんが「今日は 以外 な出来事がありました。めちゃめちゃ嬉しかったです♡」とSNSで発信したとします。
ある編集者がこのタレントXさんのこの言葉を引用して記事を作成する場合、本来であれば、「以外」ではなく「意外」の漢字が正しいのですが、
『あくまでも引用元からそのまま記事にしたもので、私が入力ミスをしているわけではないです。』
というのを読者に伝えるために「原文ママ」という言葉を用いて、Xさんの言葉を訂正することなく引用文として使用することになります。
原文ママの「ママ」がカタカナなのはなぜ?
原文ママの「ママ」がなぜカタカタなのかというと、通常「編集用語(校正記号)」では、ひらがなは使用せず、カタカナを使用するのが一般的だからです。
これは、『「本文」か「編集用語」かを分かりやすくする目的』もありますが、あまり文章で使用することのない「カタカナ」で表記することで、『修正ミスを防ぐ役割』もあるからになります。
ちなみに、「原文ママ」は、江戸時代(1603年~1868年)の写本(しゃほん)に「原文ノママ」と表記していた習慣が始まりと言われ、次第に「原文ママ」や「ママ」といった言葉に簡略化され用いられるようになっていったのだそうです。
「原文ママ」の使い方【例文】
「原文ママ(ママ)」は、出版業界などで多く用いられる言葉ですが、論文などでも使用することがあると思います。
そこで、「原文ママ」の使い方を【例文】で説明していきますので、まずは「原文ママ」を使用する際のポイントを抑えておきましょう。
「原文ママ」を使用する際のポイント
- 引用元の原文に誤字脱字などの誤りや、差別用語などの現在では使用しない古い言葉の表現があった場合に「原文ママ」を使用します。
- 引用部分は「かぎかっこ」を使用して明確にする必要がありますが、引用部分が長い場合は、段落を2つ下げて記入します。
- 「原文ママ」は、誤用している言葉の横(縦書きの場合は下)に配置するか、誤っている言葉のルビに「ママ」と表示します。
- ルビではなく、文章中に「原文ママ」を入れる場合、丸括弧(まるかっこ)または、亀甲括弧〔きっこうかっこ〕を用いて他の文章と区別して使用します。
例)(原文ママ)・〔原文ママ〕 - 引用文に誤りがない場合でも、内容の正当性に関して、文の責任は引用元にあることを明示するために「原文ママ」が用いられることもあります。
※書籍などから文章を引用する場合は、必ず脚注などに『引用元(出典)』を明示する必要がありますので、注意してください。
【例文1】
X氏の著書『unmeiの法則』では、「人間の最大の罪はイライラする心である。イライラする感情は次第に人から人へと伝 線 し、皆を不幸にする。」と彼は述べている。
X氏の著書『unmeiの法則』では、「人間の最大の罪はイライラする心である。イライラする感情は次第に人から人へと伝線(原文ママ)し、皆を不幸にする。」と彼は述べている。
※例文として作成した文となりますので、実際にこのような著書は存在しません。
(解説)
【例文1】の文章では、伝線の「線」の字が誤りであり、正しくは「伝染」の字が正しいため、「線」の後ろに(原文ママ)を使用します。
【例文2】
X教授の研究結果によると、「人は、自分の持つHLA遺伝子と遠い遺伝子を持つ異性の匂いを好む傾向があることが分かった。これは、遺伝子に多様性を持たせ、強い免疫機能の る 子孫を残そうとする人の本能によるものだと考えられる。」とある。
X教授の研究結果によると、「人は、自分の持つHLA遺伝子と遠い遺伝子を持つ異性の匂いを好む傾向があることが分かった。これは、遺伝子に多様性を持たせ、強い免疫機能のる(原文ママ)子孫を残そうとする人の本能によるものだと考えられる。」とある。
(解説)
【例文2】の文章では、本来「強い免疫機能の(あ)る」が正しい文章と思われますが、「あ」の字が脱字してしまっています。
「強い免疫機能の」までは正しい文章ですので、言葉のまとまりである「る」の後ろに(原文ママ)を使用します。
【例文3】
アメリカ代表選手の1人、X選手がTwitterで、「にっぽんのふあんのみなさん おうえんありがとうございます あいしてるよ」(原文ママ)と、日本のファンに向けて日本語でメッセージを発信したことで、注目を集めているようだ。
(解説)
【例文3】の文章では、ファンが「ふあん」となっており少々古い表現に加え、文全体もひらがなで不自然のため、引用部の最後に(原文ママ)を使用することで、「原文をそのまま引用しています」と読者に伝えることができます。
「原文ママ」の類語
「原文ママ」の類語は、「ママ」または「イキ」です。
「イキ」というのも編集用語(校正記号)の一つで、『原文を生かす』という意味があります。
「イキ」は、文章の校正を行う際、一度赤字で修正指示していたものを取り消して、再び原文に戻したい時に用いる言葉ですが、「ママ」と書く場合もあります。
しかし、引用文の誤字脱字に対して「(イキ)」と書くことはありませんので、間違えないように注意してください。
「原文ママ」の対義語(反対語)はある?
「原文ママ」に対する対義語はありません。
「原文ママ」の「ママ」という言葉から、「原文パパ」と検索される方もいらっしゃるようですが、「原文パパ」に意味は無く、「原文ママ」にかけた『言葉遊び』となっています。
「原文ママ」の英語表現
「原文ママ」を英語で表すと、
[sic]または(sic)となります。
『sic』というのは「ラテン語」で、『sic erat scriptum(このように書かれていた)』の略語だと言われています。
使い方は、『原文ママ』と同じように使用します。
まとめ:(原文ママ)は、「原文のまま引用」という意味がある
- 「原文ママ」は、編集用語(校正用語)の一つで、「ママ」と書かれることもある
- 編集用語は、本文との区別をつけるためカタカナで書くのが一般的
- 原文から文章を引用する際には、誤字脱字があったとしても修正せずにそのまま引用し、その際に「(原文ママ)」と表示を行う
- 「原文ママ」は、(丸括弧)または〔亀甲括弧〕でくくり誤字脱字の横(縦書きの場合は下)に表示するか、ルビに「ママ」と表示する
- 「原文ママ」の類語は「ママ」・「イキ」
- 「原文ママ」の対義語は無い
いかがでしたでしょうか。
「(原文ママ)」というのは、編集用語の一つで、誰かを表す言葉ではないということが分かりました。
ちなみに、引用元に「無断引用禁止」や「転写(コピー)厳禁」といった文言があった場合、「無断では引用できないか…」と思ってしまいがちですが、法律的には以下のことを満たせば、無断で引用したとしても問題がないことになっています。
①引用元(出典)を明確に表示する
②本文と引用元とをきちんと区別して記載する
③引用文を改変しない
④引用の必要性がある
⑤あくまでも自分の記事がメインであり、引用文をメインとして引用しない
しかし、「無断引用禁止」と表示しているというのは、引用元としては『勝手に引用してほしくない』と思っているということですので、どうしても引用したい場合は、『引用元に対して連絡を入れて承諾を得る』のがマナーと言えるでしょう。
ここまでご覧いただき、ありがとうございました。