素朴な顔が可愛らしく、昔から親しまれてきた木製の人形といえば「こけし」ですよね。
最近では愛らしい姿から、こけしを愛して止まない「こけ女(じょ)」と呼ばれる女性まで登場し、第三次ブームと言われるほど人気となっているようです、
その人気は海外まで広がりを見せるほどですが、そもそも「こけし」はなぜ作られるようになったのかご存じでしょうか。
そこで、この記事では、
- こけしの意味
- こけしの由来と語源
- こけしの種類
- 日本三大こけしコンクール
について、解説・紹介していきます。
こけしの意味とは
「こけし」とは、轆轤挽き(ろくろひき)で作られた『木製人形』のことを言います。
轆轤挽きとは、回転する器具に木を取り付け、専用のカンナで削って作る手法のことです。
「こけし」は丸い頭と細長い体が特徴で、子供が握りやすいように体の部分が細くなったものや、飾った時に安定するように体の部分が太くなったものがあります。
頭の部分には優しく穏やかな顔が描かれてあり、体には着物を描いたものや、美しい模様が描かれたものなど、様々な「こけし」が存在しています。
このような様々な「こけし」は、どのような経緯があり生まれたものなのでしょう。
こけしの由来と語源
「こけし」は、江戸時代の後期に東北地方の「温泉地のお土産物」として売られるようになったのが始まりとされています。
こけしの誕生
江戸時代、東北の木地師(きじし)達は、山の7合目以上の木を自由に伐採して良いなどの特権を持っており、山の上でお盆やお椀などを作り生活をしていました。
しかし、江戸時代の後期になるとその特権が失われてしまい、山から降りて湯治場(とうじば)に移り住むようになったそうです。
湯治場とは、温泉療養を目的として長期滞在をする温泉地のことを言います。
木地師達は、湯地場で会う農民たちと接する中で、「赤物(あかもの)」と呼ばれる赤の染料で着色して作った飾りが人気であることを知ると、赤物の人形を作り、お土産物として売り始めました。
当時、赤という色は天然痘(てんねんとう)から守るとされていた色であったことから、赤物こけしは大変人気となり「子供の遊び道具」や、「湯治の御利益のある縁起物」として広く親しまれるようになったと言われています。
「こけし」の名前の由来
「こけし」という名前は当初は地域によって様々な名前で呼ばれていたようです。
- 木で作った人形を木偶(でく)と呼んでいたことから、「きでこ」・「でくのぼう」・「でころこ」
- ハイハイ(這い這い)する人形という意味の這子(ほうこ)から「きぼこ」・「きぼっこ」・「こげほうこ」
- 小さい木彫りの人形に衣装を着せたものを芥子人形(けしにんぎょう)と言ったことから「こげす」・「けしにんぎょう」・「こげすんぼこ」
また、江戸時代後期の書物である『御郡村御取締御箇条御趣意帳』(高橋長蔵文書)に「木地人形こふけし」と記されていることから、「こふ(う)けし」とも呼ばれていたことが分かります。
「こけし」は主に宮城で呼ばれていた言葉のようですが、語源は諸説あり、次のようなことが言われています。
- 江戸時代の子供達の髪型である「芥子坊主(けしぼうず)」と「こけし」の髪型が似ていたことから、「小芥子(こけし)」と呼ばれるようになったという説
- 土で作られた「堤人形(つつみにんぎょう)」のことを「赤芥子(あかけし)」と呼んだことから、木で作られた人形として「木芥子(こけし)」となったという説
- 小さな人形を「芥子人形」と呼んでいたことから、木でつくられた芥子人形として「木芥子(こけし)」と言うようになったという説
- 「子消し」や「子化身」といった、貧困のため子供を間引いた(殺した)親が、子供の供養のために飾ったことから「こけし」と言われるようになったという説
こけしの語源が怖いと言われる理由
④の説はメディアで取り上げられたり、様々なところで語られたため、実は悲しく恐ろしい話があったと広く知られるようになりました。
しかしこの説は、1971年(昭和46年)に作家である松永伍一(まつながごいち)氏によって書かれたエッセイ集である『原初の闇へ』の中にある「こけし幻想行」が元となった話と言われており、松永氏による仮説や憶測と言われています。
このように様々な呼び名があった「こけし」ですが、1940年(昭和15年)に東京こけし会によって開かれた『第1回現地の集り 鳴子大会』でひらがなの『こけし』に統一され現在に至っています。
また、東北地方で生まれた『こけし』には、その生産地によって特徴があり、系統が分かれていますので、紹介します。
こけしの種類
こけしの種類は、平成30年7月に『土湯(つちゆ)系』の中から『中ノ沢(なかのさわ)系』として新たに独立を果したことから、現在12系統のこけしがあります。
津軽(つがる)系 (青森県)
津軽系こけしは、「作り付け」と呼ばれる一本の木から頭と体が作られていて、体のは上の方は丸くなっており、下はスカートのように広がった形をしているのが特徴となっています。
また、頭はおかっぱ(髪型)になっているものが多く、アイヌ模様や、津軽藩の家紋である牡丹の花、ねぶたの顔などが描かれているこけしとなっています。
木地山(きじやま)系 (秋田県)
木地山系こけしも一本の木から作られた「作り付け」となっています。
頭は長丸の形(らっきょう型)で、大きな前髪のおかっぱ、頭の上には赤い髪飾りをしています。
体には縦じまや、井桁(いげた)といった模様の着物が描かれ、前垂れ模様も特徴となっているこけしとなっています。
南部(なんぶ)系 (岩手県)
南部系こけしは、頭がゆるいはめ込み式になっており、クラクラと動くのが特徴となっています。
元々、「キナキナ」と呼ばれる赤ちゃんのおしゃぶりとして作られたこけしが原型となっています。
そのため、彩色はされていないこけしとなっていましたが、その後、菊の模様が描かれたこけしも登場することとなりました。
現在では、創作こけしも作成されており、現代風のお洒落なこけしも登場しています。
鳴子(なるこ)系 (宮城県)
鳴子こけしは、はめ込み式のこけしで、頭を回すとキュッキュと音が鳴るのが特徴です。
水引で結ってあるような前髪と、両サイドの髪にお花のような模様があります。
首元は丸く削られ、肩の所で段になっていて、体の部分には菊や楓(カエデ)といった花が描かれているこけしとなっています。
遠刈田(とおがった)系 (宮城県)
遠刈田系のこけしは、はめ込み式のこけしで、頭が大きく、放射線状に描かれた大きな髪飾りと、前髪から頬に垂れる花弁模様が特徴となっています。
体は細く、なで肩の形となっており、菊や木目(もくめ)といった模様が描かれています。
作並(さくなみ)系 (宮城県)
作並系こけしは、差し込み式のこけしで、頭は遠刈田系より小さく、前髪は水引で結ばれており、目元が可愛らしいこけしです。
体は、子供が握れるような細い体となっており、カニ菊と言われるカニのような形の菊模様が特徴になります。
弥治郎(やじろう)系 (宮城県)
弥治郎系のこけしは、差し込み式のこけしで、大きな頭とベレー帽のような轆轤(ろくろ)模様が特徴となっています。
体にはくびれがあるものもあり、轆轤模様が描かれているこけしになります。
山形(やまがた)系 (山形県)
山形系のこけしは、差し込み式のこけしで、作並系のこけしと同様に頭は小さく、広がる大きな髪飾りが描かれています。
顔は特徴的な割鼻となっており、体の模様は牡丹や紅花、菊などが描かれています。
肘折(ひじおり)系 (山形県)
肘折系のこけしは、差し込み式のこけしで、頭は大きく、ニヤッとした表情が特徴的です。
頭には放射線状に広がる髪飾りがあり、肩のところには段が付いています。菊の花が描かれたものや体が黄色に塗られているものもあります。
蔵王高湯(ざおうたかゆ)系 (山形県)
蔵王高湯系のこけしは、差し込み式のこけしで、頭は大きく、大きな放射線状の髪飾りが描かれています。
しっかりした体には、桜くずし模様や菊などが描かれ、下のほうが少し細くなっている特徴があります。
土湯(つちゆ)系 (福島県)
土湯系のこけしは、差し込み式のこけしで、頭は小さく、頭のてっぺんに描かれた蛇の目模様が特徴的です。
前髪は横長で、輪が連なった髪飾りを付けており、体は細く、その体に描かれた細い轆轤線も土湯系の特徴となっています。
中ノ沢(なかのさわ)系 (福島県)
中ノ沢系こけしは、差し込み式のこけしで、何と言っても特徴的なのは、見開いた大きな目となっています。また、目の周りはほんのり赤く、大きな鼻も特徴があります。
体は細く、大きな牡丹の花が描かれており、「たこ坊主」の愛称で親しまれています。
見た目は男の子に見えますが、女の子がモデルとなっており、「青坊主」と呼ばれる男の子がモデルのこけしも存在しています。
以上が12系統のこけしとなっていますが、このうち『鳴子系』『遠刈田系』『土湯系』は伝統こけしの三大発祥地と言われ、ここから様々な系統へと広がっていくこととなりました。
現在では、こけしのコンクールも開催されており、日本三大こけしコンクールと呼ばれる大きな大会も毎年開催されています。
日本三大こけしコンクールとは?
日本三大コンクールとは、次の大会となっています。
- 全国こけし祭り (宮城県大崎市)
- 全日本こけしコンクール (宮城県白石市)
- みちのくこけしまつり (山形県山形市)
では、それぞれの大会について解説していきます。
全国こけし祭り
『全国こけし祭り』は、1948年(昭和23年)に「鳴子こけし祭り」として始まったお祭りで、2021年で66回目となります。
宮城県大崎市で毎年9月の第1金曜日から3日間開催されるお祭りで、「こけし供養祭・こけし奉納式・伝統こけしの展示販売・こけしの絵付け体験・こけし会・フェスティバルパレード」そして、「こけし祭りコンクール」が行われています。
フェスティバルパレードでは、伝統こけしを模した「張りぼてこけし」やこけしの被り物をした「顔ぼてこけし」が温泉街を練り歩き、鳴子踊りも披露されます。
「こけし祭りコンクール」では、全国の伝統こけし工人の約300点の作品の中から最高賞となる「文部科学大臣賞」や、その他31の賞が選ばれる大会となっています。
受賞作品はお祭り期間中メイン会場である鳴子小学校体育館で展示されており、素敵な作品を実際に見ることができるというのも楽しみの一つとなっています。
全日本こけしコンクール
『全日本こけしコンクール』は、1959年(昭和34年)にこけしの発展と制作、普及を目的として宮城県白石市で始まったコンクールで、2021年で第26回を迎えます。
毎年5月の3日から5日までホワイトキューブ(白石市文化体育活動センター)で開催されるこけしの展覧会となっており、「こけしの絵付け体験・絵付けコンテスト・こけしの実演販売・地場産品販売」など、様々なイベントも開催されています。
会場内では、全国のこけしの他、木で作られた玩具や木工作品など、およそ700点もの作品が出展され購入することができます。
コンクールとしては、伝統こけし・新型こけし・創作こけし・木地玩具・応用木製品の5部門に分かれて審査されます。
賞は最高賞である「内閣総理大臣賞」となっており、「経済産業大臣賞」・「農林水産大臣賞」・「国土交通大臣賞」・「文部科学大臣賞」など2019年には65の賞が授与されています。
みちのくこけしまつり
『みちのくこけしまつり』は、伝統こけしの観賞と発展、後継者の育成などを図るために、1982年(昭和57年)に山形県山形市で始まったお祭りで、毎年秋頃の土日に開催されています。
お祭り会場である山形ビッグウイング(山形芸文美術館)では、歴代内閣総理大臣賞を受賞した工人による伝統こけしの展示販売や、木工作品の販売が行われており、実際のこけし工人による実演販売も目玉の一つになっています。
また、誰でも楽しめる絵付け体験コーナーや、山形市内に設置されたスタンプを集めると、こけしの抽選券が貰えるスタンプラリーも行われています。
2019年第39回「みちのくこけしまりコンクール」では、伝統こけしの部と木地玩具の部に分かれ、最高賞である「内閣総理大臣賞」の他、「経済産業大臣賞」・「農林水産大臣賞」など26の賞が授与されています。
まとめ:こけしは「子供の玩具」や「縁起の良い飾り物」として親しまれていた
- 東北地方の温泉地のお土産として「こけし」が売られるようになったのが始まり
- こけしは、地域によって様々な呼び名で呼ばれていた
- こけしの名称は、1940年に東京こけし会によって「こけし」に統一された
- 伝統こけしは、12系統に分類することができる
いかがでしたでしょうか。
「こけし」について詳しく知ると、実際に手にとってお気に入りの一品を探してみたくなりますね。
ちなみに「こけし」には、昔から伝わる「伝統こけし」と、型にとらわれない「創作こけし」があります。
創作こけしには、可愛らしいキャラクターのこけしや、北欧系のこけしなど種類が豊富に揃っているため、伝統こけしが苦手という人も親しめるこけしとなっています。
こけしは、手作りならではの温かみや、可愛らしい形が癒やされるアイテムですので、疲れた心を癒やしたい人はぜひ飾ってみてはいかがでしょうか。
ここまでご覧いただき、ありがとうございました。