皆さんは「丑三つ時(うしみつどき)」という言葉を聞いたことがありますか?
昔から怖い話をする際の"決まり文句"のように使われている言葉になりますが、「丑三つ時」とは一体どういう時のことを言っているのかご存知でしょうか。
また、「丑三つ時」には幽霊が出ると言われているのですが、なぜ幽霊が出ると言われるのか気になりますよね。
そこで、この記事では、
- 「丑三つ時」の意味や由来
- 丑三つ時は何時から何時まで?
- 丑三つ時に幽霊が出ると言われる理由
- 藁人形を使った呪いの儀式とは
- 丑三つ時にしてはいけないこと
について解説・紹介していきます。
丑三つ時(うしみつどき)の意味や由来とは?
「丑三つ時(うしみつどき)」は、十二支(じゅうにし)の動物を使って時刻を表した言葉で、『十二時辰(じゅうにじしん)』の中の、「丑の刻の時間」のことを言います。
十二支の動物は、干支(えと)でお馴染みの下記の動物です。
- 子(ね)・・・ねずみ
- 丑(うし)・・・牛
- 寅(とら)・・・虎
- 卯(う)・・・うさぎ
- 辰(たつ)・・・龍
- 巳(み)・・・へび
- 午(うま)・・・馬
- 未(ひつじ)・・・羊
- 申(さる)・・・猿
- 酉(とり)・・・鳥
- 戌(いぬ)・・・犬
- 亥(い)・・・いのしし
江戸時代まで使われていた不定時法(時計)が由来
機械式の時計が発達していなかった江戸時代までは、1日を昼と夜の二つに分け、昼を6等分、夜を6等分にして時刻を決める「不定時法(ふていじほう)」という方法をとっていました。
昼は、『日の出~日の入り』までの時間となっており、季節によって昼の長さが変わるため、昼の1刻と夜の1刻とでは時間の長さが違います。
どういうことかと言うと、
仮に日の出が朝の5時、日の入りが夜の7時だとすると、昼の時間は14時間、夜の時間は10時間となります。
不定時法では、昼を6等分・夜を6等分するので、昼の1刻の時間は2時間20分、夜の一刻の時間は、1時間40分となるということです。
上記の絵は『十二時辰』の図で、「夏至」と「冬至」の昼と夜の時間の長さを表したものになります。
夏と冬では、夏の方が昼の時間が長くなっていますね。
ちなみに、絵の中にある漢数字の「四~九の数字」は、その時刻をしらせる鐘の数となっています。
このように『十二時辰』では、1日を12(昼6等分・夜6等分)で分けたものに干支を当てはめて時刻を考えていました。
当時の日本では、時間(時刻)のことを「丑の刻(うしのこく)」のように、十二支の名前で呼んだり、時刻を知らせる鐘の数で呼んだりしていたようです。
その当時は「不定時法」のため、十二支の時間の長さは定まっていませんでしたが、現在の時刻を表す方法である「定時法」で表すと、下記のようになります。
不定時法の時刻を定時法で表した時刻
十二支での呼び名 | 時刻の範囲 | 鐘の数での呼び名 |
子の刻(ねのこく) | 23時~1時まで | 真夜九つ(まよここのつ) |
丑の刻(うしのこく) | 1時~3時まで | 夜八つ(よるやつ) |
寅の刻(とらのこく) | 3時~5時まで | 暁七つ(あかつきななつ) |
卯の刻(うのこく) | 5時~7時まで | 明六つ(あけむつ) |
辰の刻(たつのこく) | 7時~9時まで | 朝五つ(あさいつつ) |
巳の刻(みのこく) | 9時~11時まで | 昼四つ(ひるよつ) |
午の刻(うまのこく) | 11時~13時まで | 真昼九つ(まひるここのつ) |
未の刻(ひつじのこく) | 13時~15時まで | 昼八つ(ひるやつ) |
申の刻(さるのこく) | 15時~17時まで | 夕七つ(ゆうななつ) |
酉の刻(とりのこく) | 17時~19時まで | 暮六つ(くれむつ) |
戌の刻(いぬのこく) | 19時~21時まで | 宵五つ(よいいつつ) |
亥の刻(いのこく) | 21時~23時まで | 夜四つ(よるよつ) |
「定時法」では、日の出・日の入り関係なく、きっちり2時間で分けることができるため、昼と夜の時間の長さは全て等しくなります。
時刻の範囲では、始まりの時刻を「初刻(しょこく)」、中間の時刻を「正刻(せいこく又はしょうこく)」と言います。
「丑の刻」で言うと「初刻」は1時、「正刻」は2時となります。
ちなみに、昼は『明六つ(卯の刻)の正刻~暮六つ(酉の刻)の正刻まで』とされていて、この表での昼の範囲としては、「6時~18時まで」となっています。
また、鐘は「正刻」に鳴らされるもので、陰陽道(おんみょうどう)で縁起の良いとされる「9回」から「8・7・・・」と鳴らす数は少なくなっていき、昼の正刻にまた「9回」に戻るというような型式をとっていたようです。
これは、9の倍数である「18・27・36・45・54」の下一桁の数が由来となり、そのように決められていたのだそうです。
そのため、数だけでは重複してしまい、何時のことを言っているのか分からないので「暮六つ(くれむつ)・明六つ(あけむつ)」という言い方をしていたと言われています。
丑三つ時(うしみつどき)は何時から何時まで?
日本ではおおまかな2時間を表す言葉が用いられていましたが、その後、西洋の24時間制が導入されたことで、さらに細かく時間を表す方法が日本でも用いられるようになります。
「十二時辰」に24時間制が導入されると、「2小時」・「3刻」・「4刻」といった時間を分割する方法が用いられるようになりました。
2小時
2小時とは、今まで約2時間ずつで分けていたものを、その半分の1時間ごとの小時に分けることをいいます。
初刻から正刻までの時間は「初」、正刻から次の初刻までは「正」として、十二支の名前の後につけて表します。
「丑の刻(1時~3時)」だと、
- 『1時~2時までは「丑初」』
- 『2時~3時までは「丑正」』となります。
3刻
3刻とは、約2時間を3分割にして40分ごとの時刻に分けることを言います。
「丑の刻(1時~3時)」だと、
- 『1時~1時40分までは「丑の上刻」』
- 『1時40分~2時20分までは「丑の中刻」』
- 『2時20分~3時までは「丑の下刻」』となります。
4刻
4刻とは、約2時間を4分割にして30分ごとの時刻に分けることを言います。
「丑の刻(1時~3時)」だと、
- 「丑一つ」は『1時~1時30分まで』のこと
- 「丑二つ」は『1時30分~2時まで』のこと
- 「丑三つ」は『2時~2時30分まで』のこと
- 「丑四つ」は『2時30分~3時まで』のこと
を表しています。
このことから「丑三つ時」は、『2時~2時30分までの時間』ということになります。
「丑三つ時」は人だけではなく、草木も眠るほど静まり返った真夜という意味で「草木も眠る丑三つ時」と言われています。
また、よく「丑三つ時」には幽霊や化け物が出ると言われているようですが、何か理由があるのでしょうか。
「丑三つ時」に幽霊が出ると言われる理由とは?
「丑三つ時」が幽霊が出ると言われているのは、『陰陽道(おんみょうどう)』と言われる日本独自に発展した占いから「丑の刻」の方位が「鬼門(きもん)」となっていることが理由だとされています。
※「陰陽道」は(いんようどう・おんようどう)とも言います。
『陰陽道』は、中国から伝わった「陰陽五行説(おんみょうごぎょうせつ)」などを元に作られていて、十二支には方位などが結びつけられていました。
陰陽五行説とは、「木・火・土・金・水」の5つの属性と、陰と陽の性質(闇と光のような相反する性質)の組み合わせでこの世のものはできているという考えのことを言います。
丑三つ時と鬼門の関係
そもそも「鬼門」とは、鬼が出入りする不吉な方角となっており、昔から避けるべき方角だと考えられていました。
また、その方角と重なる「丑三つ時」は鬼門が開いて死者や鬼が現われる時間だと考えられていたようです。
では、鬼門の方角を確認してみましょう。
鬼門の方角は『北東』となっており、丑の刻と寅の刻の間の方角が鬼門に当ります。
また、この方角は「艮(うしとら)」の方角と言われています。
丑と寅どちらも良くない時間とされていましたが、丑の刻は陰の性質となっており、最も強い陰の気とされたことから丑の刻が特に不吉な時間と考えられたようです。
そのため、丑の刻の時間である「丑三つ時」が「丑満つ時」と考えられ、『丑の刻の強い陰の気が満ちる時』と解釈されたことから、「丑三つ時には幽霊が出る」と言われるようになったのではないかとされています。
また、「丑の刻」が邪悪な気が満ちる時間とされたことで、藁人形を使った呪いの儀式も行われるようになったと言われています。
藁人形を使った呪いの儀式とは?
藁人形を使った呪いと儀式と言えば有名ですね。
真夜中にひっそりと藁人形に釘を打ち込む姿はテレビなどで見たことがあるかと思います。
この呪いの儀式は、『丑の刻参り(うしのこくまいり)』または『丑の時参り(うしのときまいり)』と言い、江戸時代に完成されたと言われています。
丑の刻参り(丑の時参り)とは?
『丑の刻参り』は、「丑の刻(丑三つ時)」に神社に向かい、御神木に藁人形を釘で打ち付け、憎い相手を呪う呪術(じゅじゅつ)の一種になります。
丑の刻参りは7日間連続して行うことで願いが叶い、呪った相手が死ぬと言われていますが、この行為を誰か他の人に見られると、願いが叶わず自分に跳ね返ってくるというものです。
もし人に見られてしまった場合は、腰に身につけた護り刀(まもりがたな)で相手を始末することで防ぐことができると言われています。
なんとも恐ろしい儀式ですが、当初は『丑の時参り』と言われていて、呪い(のろい)としてではなく、祈願成就の呪い(まじない)として行われていたようです。
本来『丑の刻参り』は丑の刻に神仏に参拝することを表す言葉でしたが、五行陰陽説が伝わってからは、憎む相手を呪う儀式へと変わったとされています。
丑三つ時にしてはいけないこと
霊界と繋がりやすいとされる「丑三つ時」には、"してはいけない"と言われていることがありますので、ご紹介します。
合わせ鏡
2枚以上の鏡を向かい合わせることを「合わせ鏡」と言いますが、丑三つ時(2時~2時30分)に合わせ鏡をすると、「霊道」となってしまうと言われています。
「霊道」とは、霊界からこの世へと続く霊の通り道のことです。
「霊道」が作られてしまうと、そこから幽霊や※魑魅魍魎(ちみもうりょう)が入ってきてしまうことになり、災いなどをもたらす恐れがあるとされています。
※魑魅魍魎(ちみもうりょう)とは、人に害を与えるとされる化け物のことを言います。
盛り塩
盛り塩は、お清めとして使用する場合は、小皿に盛った塩を邪気が入ってこないように入り口に置くものですが、丑三つ時には行わないほうが良いと言われています。
丑三つ時は陰の気が強いため、霊が集まっています。
その時に盛り塩をしてしまうと、すでに入ってしまった霊をその場に閉じ込めてしまうおそれがあると言われているのです。
お清めの盛り塩を置く場合は、陰の気が弱くなる午前中に置くのが良いとされています。
こっくりさん(狐狗狸さん)
こっくりさん(狐狗狸さん)は、狐の霊を呼び出す降霊術とされています。
字に狐(きつね)・狗(いぬ)・狸(たぬき)の字が当てられているのは、霊力が強いと言われている動物が由来となっています。
どういう降霊術かというと、「鳥居・五十音・はい・いいえ」などを書いた紙を用意し、その紙の上に置いた十円玉に指を乗せて、その十円玉の動きで霊の言葉を知るというものになります。
こっくりさんでは、霊を降ろすという呪術になっていますので、丑三つ時に行ってしまうと様々な霊が寄ってきてしまい、どのような霊が降りてくるか分からないため非常に危険だと言われています。
ひとりかくれんぼ(ひとり鬼ごっこ)
「ひとりかくれんぼ」とは、一人で行う降霊術となっています。また、「ひとり鬼ごっこ」とも呼ばれているようです。
どういう降霊術かというと、ぬいぐるみの中にお米と自分の爪を入れて赤い糸で縫い合わせたものを用意して、そのぬいぐるみとかくれんぼをし、心霊現象や怪奇現象を体験するというものになります。
中には、髪の毛を入れたり、血を入れる場合もあるとのことですが、人形に自分の一部を入れるということは、そのぬいぐるみと自分が同じになることを意味しています。
このことは非常に危険なこととされていますので、面白半分で行わない方が賢明と言えるでしょう。
また、丑三つ時に行うと、霊に取り憑かれてしまう可能性があり、行うべきではないとされています。
水を用意し、お経を唱える
丑三つ時に水を用意した状態でお経を唱えると、お経によって集められた霊がその水の中に溶け込むと言われています。
もし、その水を飲んでしまうと、水と一緒に霊まで取り込んでしまうことになるので、何が起こってもおかしくない危険な行為とされています。
まとめ:丑三つ時は、2時~2時30分を表す言葉
- 丑三つ時は「十二支」を使った時間の表し方
- 丑の刻と寅の刻の間の方位は『北東』で、鬼門となっている
- 丑三つ時は最も陰の気が強いと考えられ、特に幽霊が出やすい時間とされている
いかがでしたでしょうか。
「丑三つ時」は陰の気となっており、鬼門と重なったことで不吉な時間とされてきたことが分かりました。
ちなみに、鬼門と反対側に位置する「未と申」の方角である「坤(ひつじさる)」の方角も『裏鬼門』と言われ、鬼門と同様にあまり良くない方角と言われています。
鬼と言えば、鋭い角(ツノ)と虎柄模様のパンツが特徴的ですよね。
これは「丑と寅」の方角が鬼門とされたことから、「鬼」は「牛の角を持ち、虎の毛皮を身につけている」と考えられるようになったことが由来となっているのだそうです。
ここまでご覧いただき、ありがとうございました。