皆さんは、「花筏(はないかだ)」という言葉をご存じでしょうか。
桜の花がひらひらと舞い散る頃に用いられる言葉ですが、どうやら意味は1つだけではないようです。
また、花筏は骨壺と関係があると言われているようなのですが、いったいどいうことなのでしょう。
そこで、この記事では、
- 「花筏」の意味や由来
- 季語としての「花筏」
- 「花筏」を用いた俳句の紹介
- 時候の挨拶としての「花筏」
- 桜の花の様子を表す言葉
- 「花筏」の世界的名所
- 「花筏」の英語表現
について解説・紹介していきます。
花筏(はないかだ)の意味とは?
「花筏(はないかだ)」という言葉には、大きく3つの意味があります。
①桜の花びらが川を流れる様子
まず、一つ目の「花筏」の意味は、
『水面に散った桜の花びらが、筏(いかだ)のように連なって川を流れる様子』
を例えた言葉を言います。
※筏というのは、浮力のある木材をつなぎ合わせた舟(ふね)の役割をするもののことです。
また、
『筏に桜の花びらが散りかかっている様子』
『筏に花の枝を取り付けているもの』
も「花筏」とされています。
一般に「花筏」という場合は、桜の花びらが川を流れる様子を表すことが多いです。
②落葉低木(らくようていぼく)の名称
二つ目つめの意味は、
北海道の南西部~九州までの森林に広く生息する、葉の上に花を咲かせ、丸い実を付ける『ミズキ科の落葉低木(らくようていぼく)』を、「花筏(ハナイカダ)」と言います。
また、「ハナイカダ」は別名、「ままっこ」・「ヨメノナミダ(嫁の涙)」とも言われれる植物です。
「ハナイカダ」は、葉の上に花や実を付けることから、筏に乗る船頭(せんどう)に見立ててそのように名付けられています。
※船頭とは、船をこぎ、操る人を言います。
別名である「ままっこ」という呼び名は、花や実の様子を子供の「おままごと(お飯事)」に見立ててそのように呼ばれているそうです。
③文様のこと
3つ目の意味としては、
『筏に花の枝をあしらえた文様(もんよう)や、その文様を用いた家紋(かもん)』
のことを「花筏」と言います。
筏と花を描いた文様である「花筏文(はないかだもん)」は、着物や器のデザインとして親しまれ、花は桜の花だけに限定されず、様々な植物が描かれているのが特徴です。
「花筏文」以外にも、二輪の車にお花を乗せた文様である「花車文(はなぐるまもん)」や、竹の籠(かご)にお花を入れた文様である「花籠文(はなかごもん)」といった様々な文様が存在します。
花筏の由来とは
「花筏」という言葉が、いつ、誰によって作られたのかは、分かっていません。
しかし、1518年に成立した歌謡集である『閑吟集(かんぎんしゅう)』には、
『吉野川の花筏浮かれてこがれ候よの浮かれてこがれ候よの』
という歌が掲載されていることから、室町時代には存在していた言葉と考えられています。
高台寺の花筏
京都にある、豊臣秀吉と正室であった高台院(通称:北政所、諱:ねね)を祀る『高台寺(こうだいじ)』霊屋(おたまや)には、堂内装飾として「花筏」と呼ばれる「蒔絵(まきえ)」が残っています。
蒔絵とは、漆(うるし)で描いた絵に、乾かないうちに金や銀の粉を蒔(ま)いて定着させるという日本独自の技法で描いた装飾のことです。
「高台寺」の「花筏」は、安土桃山時代(1573年~1603年)の重要文化財とされていますので、文様としての「花筏」は、この頃にはすでに存在していたということになります。
ちなみに、「花筏」の文様は、『川は時の流れを表し、花が筏のように川を流れていく様子を、人間の命に例えて表現されたもの』だそうです。
高台寺の蒔絵である「花筏」は、高台寺のホームページにて掲載されていますので、下記のリンクよりご覧になれます。
花筏は骨壺(こつつぼ)を流す風習が由来?
一説として、昔一部の地域で、筏に花や骨壺をくくりつけて流す風習が存在し、くくりつけた骨壺が早くほどけて川に落ちると、極楽浄土に行けるとされていたことから、そこから「花筏」という言葉が生まれたという説があるようです。
しかしながら、この説に言われている風習が、本当に存在していたかも定かではないため、あくまでも一説となっています。
季語としての花筏とは
「花筏」は、俳句の世界では、桜の花が散る頃『晩春』に用いられる『春の季語』とされています。
晩春は、『清明(4月5日頃)~立夏(5月6日頃)の前日』までのことです。
「花筏」は、水面に浮かぶ桜の花びらの美しい光景を表す言葉でもありますが、
『この世は儚(はかな)いもので、どんなに盛んなものも、必ず朽(く)ちる時が来る。全てのものは、移り変わっていくのが常である。』
といった諸行無常(しょぎょうむじょう)を表す言葉でもあります。
花筏を用いた俳句紹介
それでは、「花筏」を用いた俳句をご紹介します。
『月ありて浮藻のごとし花筏』吉野義子(よしのよしこ)
『花筏などとはとても云へぬもの 』 高澤良一(たかざわよしかず)
『花筏鯉の口付け受けてをり』杉山青風(すぎやまさんぷう)
『花筏とは棄てながらゆく舟か』佐々木六戈(ささきろっか)
『花筏ゆるりきたりし誌の齢』斉藤夏風(さいとうかふう)
『花屑に尻餅ついて泣き出せる 』行方克巳(なめかたかつみ)
花筏を用いた挨拶例文
「花筏」は、『晩春』を表す季語となっているため、手紙の「時候の挨拶」としても用いられています。
それでは、「時候の挨拶」を例文でご紹介します。
- 【例文1】
花筏が漂い、春の終わりを感じる季節となってまいりました。 - 【例文2】
花筏が美しく、新緑が水面に映える頃となりました。 - 【例文3】
輝くような水面を花筏が流れ、春の光がうららかな季節となりました。
このように、時候の挨拶として「花筏」を取り入れると、晩春の季節を感じられる素敵な挨拶となるのではないでしょうか。
「桜の花」の様子を表す言葉
「花筏」という言葉の他にも、「桜の花」から作られた素敵な言葉がたくさんありますので、ご紹介します。
- 【花盛り】(はなざかり)
花(主に桜)が咲きそろっていることを言います。または、その季節のことです。 - 【花明かり】(はなあかり)
桜の花が満開となり、夜でも辺りがほのかに明るく感じられることを言います。 - 【花の雲】(はなのくも)
桜の花が一面満開に咲いているさまを、雲に例えた言葉です。 - 【花霞】(はながすみ)
満開に咲く桜の花が、遠くから見ると、霞(かすみ)がかったように白くぼんやり見えることを言います。 - 【零れ桜】(こぼれざくら)
咲き満ちてこぼれ落ちる桜の花のことです。または、桜の花を散らした模様のことを言います。 - 【花莚】(はなむしろ)
桜の花びらが、莚(むしろ)を敷いたかのように一面に地面に広がっている様子を表します。または、草花が一面に咲きそろった様子のことを言います。
※莚とは、ワラや、イグサなどで編んである敷物のことです。 - 【桜吹雪】(さくらふぶき)
雪がふぶいているかのように、桜の花びらが舞い散る様子を言います。 - 【花の浮橋】(はなのうきはし)
桜の花びらが、水面一面に浮いている様子を、浮橋に見立てた言葉です。
※浮橋とは、筏や船を並べて繋ぎ、その上に板を乗せて橋にしたものを言います。
花筏の名所は?
青森県弘前市(ひろさきし)にある『弘前公園(ひろさきこうえん)』をご存じでしょうか。
「日本三大桜の名所」にも選ばれた、東京ドームの10個分も言われる49万2000㎡もの広大な敷地で、約52種・約2600万本の桜を楽しむことが出来ます。
中でも、「死ぬまでに行きたい!世界の絶景」で紹介されたことのある「弘前公園の花筏」は、『桜の絨毯(じゅうたん)』とも呼ばれ、世界中の人々の心を魅了しています。
毎年、4月下旬~5月上旬に開催される『弘前さくらまつり』では、夜桜のライトアップも行われ、美しい桜を楽しもうと、200万人を越える来園者が集るそうです。
ちなみに、2021年(令和3年)の「弘前さくらまつり」は、『2021年4月23日(金)~5月5日(水)』の期間で開催が予定されています。
花筏を英語で表現すると
「花筏」は、英語で次のように表現されています。
『raft-like chain of fallen cherry blossoms on the water.』
(筏のような水面に落ちた桜の連なり)
また、植物の「ハナイカダ」は、『Helwingia japonica』と言います。
まとめ:花筏の意味は、水面に散った桜の花びらが、筏のように連なって川を流れる様子を表した言葉
- 「花筏」は、葉の上に花をつける落葉低木の名称や、筏と花の枝をあしらった文様といった意味もある
- 「花筏」は春の季語で、晩春「清明(4月5日頃)~立夏(5月6日頃)の前日」に用いられる言葉
- 「花筏」は、桜の美しさを表すだけでなく、諸行無常を表す言葉でもある
いかがでしたでしょうか。花筏は、川を流れる桜の花びらを、筏にみたてた美しい言葉ということが分かりました。
ちなみに、季節を感じられるお茶菓子として有名な上生菓子(じょうなまがし)の中にも、「花筏」をモチーフにしたものが作られているようです。
上生菓子は、江戸時代中期に京都で発祥し、全国へと伝わったと言われ、植物や鳥などを表現した芸術作品のような色彩や形、上品な味わいで楽しませてくれます。
お花見をしながら、美しい上生菓子を味わうというのも、風流で良いかもしれません。
ここまでご覧いただき、ありがとうございました。