豆知識

花筏の意味とは?由来や季語、時候の挨拶【例文】英語表現について解説

2021年2月19日

桜の木と舞い散る花びらのイラスト

皆さんは、「花筏(はないかだ)」という言葉をご存じでしょうか。

桜の花がひらひらと舞い散る頃に用いられる言葉ですが、どうやら意味は1つだけではないようです。

また、花筏は骨壺と関係があると言われているようなのですが、いったいどいうことなのでしょう。

そこで、この記事では、

  • 「花筏」の意味や由来
  • 季語としての「花筏」
  • 「花筏」を用いた俳句の紹介
  • 時候の挨拶としての「花筏」
  • 桜の花の様子を表す言葉
  • 「花筏」の世界的名所
  • 「花筏」の英語表現

について解説・紹介していきます。

花筏(はないかだ)の意味とは?

「花筏(はないかだ)」という言葉には、大きく3つの意味があります。

①桜の花びらが川を流れる様子

花筏の写真

まず、一つ目の「花筏」の意味は、
水面に散った桜の花びらが、筏(いかだ)のように連なって川を流れる様子
を例えた言葉を言います。
※筏というのは、浮力のある木材をつなぎ合わせた舟(ふね)の役割をするもののことです。

また、
筏に桜の花びらが散りかかっている様子
筏に花の枝を取り付けているもの
も「花筏」とされています。

一般に「花筏」という場合は、桜の花びらが川を流れる様子を表すことが多いです。

②落葉低木(らくようていぼく)の名称

ハナイカダの写真

二つ目つめの意味は、
北海道の南西部~九州までの森林に広く生息する、葉の上に花を咲かせ、丸い実を付けるミズキ科の落葉低木(らくようていぼく)』を、「花筏(ハナイカダ)」と言います。

また、「ハナイカダ」は別名、「ままっこ」・「ヨメノナミダ(嫁の涙)」とも言われれる植物です。

「ハナイカダ」は、葉の上に花や実を付けることから、筏に乗る船頭(せんどう)に見立ててそのように名付けられています。
※船頭とは、船をこぎ、操る人を言います。

別名である「ままっこ」という呼び名は、花や実の様子を子供の「おままごと(お飯事)」に見立ててそのように呼ばれているそうです。

③文様のこと

着物のイメージ写真

3つ目の意味としては、
筏に花の枝をあしらえた文様(もんよう)や、その文様を用いた家紋(かもん)
のことを「花筏」と言います。

筏と花を描いた文様である「花筏文(はないかだもん)」は、着物や器のデザインとして親しまれ、花は桜の花だけに限定されず、様々な植物が描かれているのが特徴です。

「花筏文」以外にも、二輪の車にお花を乗せた文様である「花車文(はなぐるまもん)」や、竹の籠(かご)にお花を入れた文様である「花籠文(はなかごもん)」といった様々な文様が存在します。

花筏の由来とは

徳島城と桜の写真

「花筏」という言葉が、いつ、誰によって作られたのかは、分かっていません。

しかし、1518年に成立した歌謡集である『閑吟集(かんぎんしゅう)』には、
吉野川の花筏浮かれてこがれ候よの浮かれてこがれ候よの
という歌が掲載されていることから、室町時代には存在していた言葉と考えられています。

高台寺の花筏

京都にある、豊臣秀吉と正室であった高台院(通称:北政所、諱:ねね)を祀る『高台寺(こうだいじ)』霊屋(おたまや)には、堂内装飾として「花筏」と呼ばれる「蒔絵(まきえ)」が残っています。

蒔絵とは、漆(うるし)で描いた絵に、乾かないうちに金や銀の粉を蒔(ま)いて定着させるという日本独自の技法で描いた装飾のことです。

「高台寺」の「花筏」は、安土桃山時代(1573年~1603年)の重要文化財とされていますので、文様としての「花筏」は、この頃にはすでに存在していたということになります。

ちなみに、「花筏」の文様は、『川は時の流れを表し、花が筏のように川を流れていく様子を、人間の命に例えて表現されたもの』だそうです。

高台寺の蒔絵である「花筏」は、高台寺のホームページにて掲載されていますので、下記のリンクよりご覧になれます。

高台寺のホームページはこちらへ

花筏は骨壺(こつつぼ)を流す風習が由来?

一説として、昔一部の地域で、筏に花や骨壺をくくりつけて流す風習が存在し、くくりつけた骨壺が早くほどけて川に落ちると、極楽浄土に行けるとされていたことから、そこから「花筏」という言葉が生まれたという説があるようです。

しかしながら、この説に言われている風習が、本当に存在していたかも定かではないため、あくまでも一説となっています。

季語としての花筏とは

桜の花びらを持つ人の写真

「花筏」は、俳句の世界では、桜の花が散る頃『晩春』に用いられる『春の季語』とされています。

晩春は、清明(4月5日頃)~立夏(5月6日頃)の前日までのことです。

「花筏」は、水面に浮かぶ桜の花びらの美しい光景を表す言葉でもありますが、
この世は儚(はかな)いもので、どんなに盛んなものも、必ず朽(く)ちる時が来る。全てのものは、移り変わっていくのが常である。
といった諸行無常(しょぎょうむじょう)を表す言葉でもあります。

花筏を用いた俳句紹介

それでは、「花筏」を用いた俳句をご紹介します。

『月ありて浮藻のごとし花筏』吉野義子(よしのよしこ)

花筏などとはとても云へぬもの 』 高澤良一(たかざわよしかず)

花筏鯉の口付け受けてをり』杉山青風(すぎやまさんぷう)

花筏とは棄てながらゆく舟か』佐々木六戈(ささきろっか)

花筏ゆるりきたりし誌の齢』斉藤夏風(さいとうかふう)

花屑に尻餅ついて泣き出せる 』行方克巳(なめかたかつみ)

花筏を用いた挨拶例文

「花筏」は、『晩春』を表す季語となっているため、手紙の「時候の挨拶」としても用いられています。

それでは、「時候の挨拶」を例文でご紹介します。

  • 【例文1】
     花筏が漂い、春の終わりを感じる季節となってまいりました。
  • 【例文2】
     花筏が美しく、新緑が水面に映える頃となりました。
  • 【例文3】
     輝くような水面を花筏が流れ、春の光がうららかな季節となりました。

このように、時候の挨拶として「花筏」を取り入れると、晩春の季節を感じられる素敵な挨拶となるのではないでしょうか。

「桜の花」の様子を表す言葉

満開の桜の写真

「花筏」という言葉の他にも、「桜の花」から作られた素敵な言葉がたくさんありますので、ご紹介します。

  • 花盛り】(はなざかり)
    花(主に桜)が咲きそろっていることを言います。または、その季節のことです。
  • 花明かり】(はなあかり)
    桜の花が満開となり、夜でも辺りがほのかに明るく感じられることを言います。
  • 花の雲】(はなのくも)
    桜の花が一面満開に咲いているさまを、雲に例えた言葉です。
  • 花霞】(はながすみ)
    満開に咲く桜の花が、遠くから見ると、霞(かすみ)がかったように白くぼんやり見えることを言います。
  • 零れ桜】(こぼれざくら)
    咲き満ちてこぼれ落ちる桜の花のことです。または、桜の花を散らした模様のことを言います。
  • 花莚】(はなむしろ)
    桜の花びらが、莚(むしろ)を敷いたかのように一面に地面に広がっている様子を表します。または、草花が一面に咲きそろった様子のことを言います。
    ※莚とは、ワラや、イグサなどで編んである敷物のことです。
  • 桜吹雪】(さくらふぶき)
    雪がふぶいているかのように、桜の花びらが舞い散る様子を言います。
  • 花の浮橋】(はなのうきはし)
    桜の花びらが、水面一面に浮いている様子を、浮橋に見立てた言葉です。
    ※浮橋とは、筏や船を並べて繋ぎ、その上に板を乗せて橋にしたものを言います。

花筏の名所は?

弘前公園の桜の絨毯写真

青森県弘前市(ひろさきし)にある『弘前公園(ひろさきこうえん)』をご存じでしょうか。

日本三大桜の名所」にも選ばれた、東京ドームの10個分も言われる49万2000㎡もの広大な敷地で、約52種・約2600万本の桜を楽しむことが出来ます。

中でも、「死ぬまでに行きたい!世界の絶景」で紹介されたことのある「弘前公園の花筏」は、『桜の絨毯(じゅうたん)』とも呼ばれ、世界中の人々の心を魅了しています。

毎年、4月下旬~5月上旬に開催される『弘前さくらまつり』では、夜桜のライトアップも行われ、美しい桜を楽しもうと、200万人を越える来園者が集るそうです。

ちなみに、2021年(令和3年)の「弘前さくらまつり」は、『2021年4月23日(金)~5月5日(水)』の期間で開催が予定されています。

花筏を英語で表現すると

「花筏」は、英語で次のように表現されています。

raft-like chain of fallen cherry blossoms on the water.
(筏のような水面に落ちた桜の連なり)

また、植物の「ハナイカダ」は、『Helwingia japonica』と言います。

まとめ:花筏の意味は、水面に散った桜の花びらが、筏のように連なって川を流れる様子を表した言葉

小舟にのる人のイラスト
  • 「花筏」は、葉の上に花をつける落葉低木の名称や、筏と花の枝をあしらった文様といった意味もある
  • 「花筏」は春の季語で、晩春「清明(4月5日頃)~立夏(5月6日頃)の前日」に用いられる言葉
  • 「花筏」は、桜の美しさを表すだけでなく、諸行無常を表す言葉でもある

いかがでしたでしょうか。花筏は、川を流れる桜の花びらを、筏にみたてた美しい言葉ということが分かりました。

ちなみに、季節を感じられるお茶菓子として有名な上生菓子(じょうなまがし)の中にも、「花筏」をモチーフにしたものが作られているようです。

上生菓子は、江戸時代中期に京都で発祥し、全国へと伝わったと言われ、植物や鳥などを表現した芸術作品のような色彩や形、上品な味わいで楽しませてくれます。

お花見をしながら、美しい上生菓子を味わうというのも、風流で良いかもしれません。

ここまでご覧いただき、ありがとうございました。

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のすけ

ご覧いただきありがとうございます! 少しばかり私の紹介ですが、息子を育てる父親であり、会社員をしています。 父親として恥ずかしくないよう、皆様と一緒に日本文化について知識を深めていけたらと思っていますので、どうぞよろしくお願いします。

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