皆さんは「俯瞰的」という言葉には、どのような意味があるのかをご存知でしょうか。
よく、ビジネスの場で用いられることの多い言葉ですが、日常ではあまり用いることがないため、「俯瞰的に・・・」と言われても意味が分からない方も多いようです。
また、「俯瞰的に見る」という使い方は間違いという意見もあるようですが、実際はどうなのでしょう。
そこで、この記事では、
- 俯瞰的の意味とは
- 俯瞰的の使い方【例文】
- 「俯瞰的に見る」は誤用?
- 俯瞰的の類語・対義語
- 俯瞰的と客観的の違い
- 俯瞰力のある人とは
- 俯瞰の英語表現
について解説・紹介していきます。
俯瞰的の意味とは
まず、「俯瞰的」は、「俯瞰」という言葉に接尾辞(せつびじ)である「的」がついた言葉で、
読み方は『ふかんてき』です。
「俯」という漢字には「うつむく・顔を下に向ける」といった意味、
「瞰」という漢字には「見下ろす・眺める」といった意味があるよ。
「俯瞰」という言葉には、
・高いところから見下ろし眺めること
・全体を上から見ること
という意味があります。
そのため、比喩的に「広い視野で全体を把握すること」・「長期的な視点を持って行動すること」という意味でも使用される言葉になります。
接尾辞の「的」は、名詞の後ろに付けて「そのような性質の」といった意味を持たせる言葉です。
したがって、「俯瞰的」という言葉には、
『高いところから全体を見下ろすような見方・考え方』という意味があります。
俯瞰的の使い方【例文】
「俯瞰」という言葉は、「全体を見る」という点で、『視覚的意味』と『比喩的意味』のある言葉になりますが、ビジネスシーンでは、『比喩的な意味』で使用されることが多いです。
ビジネス関係で「俯瞰的」という言葉が用いられた場合、下記のような意味で使用されています。
- 『目の前のことだけでなく、全体の流れを把握する』
- 『視野を広くして行動する』
- 『長期的・将来的な視点で取り組む』
- 『仕事全体の流れを把握して、自分のすべきことを考える』
それでは例文で「俯瞰的」の使い方を例文で紹介します。
- リーダーには俯瞰的思考かつチームの統率力が必要とされる。
- 俯瞰的に物事を捉えるということは、様々な面から物事を把握するということだ。
- 俯瞰的な視点を持つことで、何事においても円滑な行動ができるようになる。
「俯瞰的に見る」という使い方は誤用?
「俯瞰」が用いられる際に、『俯瞰的に見る』・『俯瞰して見る』というような使い方がされることがあります。
この場合、「俯瞰」という言葉には、すでに「全体を見る」という意味が含まれているため、同じ意味が重なる「重言(じゅうげん)」にあたるとして間違った使い方と言われることがあります。
※重言は二重表現とも言われます。
重言の例を挙げると、下記のような使い方です。
・×尽力を尽くす→○尽力する
・×馬から落馬した→○馬から落ちた
・×日本に来日する→○日本に来る
「俯瞰的に見る」・「俯瞰して見る」も例のような意味が重なる重言と言えるでしょう。
けれども、必ずしも意味が重なっているからといって誤用とは言えない場合もあります。
誤用とは言えない重言(二重表現)
- 歌を歌う
- 踊りを踊る
- いま現在
- 一番最初に
- 掛け声を掛ける
など・・・
上記のような表現は、意味が重複するため重言と言えますが、
・意味を強調させるため
・語調を整えるため
・意味を分かりやすくするため
などの目的を持たせる『修辞技法(しゅうじぎほう)』として用いられている言葉とされています。
意図的に同じ意味の言葉を重ねているということだね。
そのため、これらの言葉は誤用とは言えず、広く一般的に使用されることも多い言葉となっており、放送業界でも「伝わりやすい表現」として用いられているようです。
明らかに使い方がおかしい「頭痛が痛い」や「押印を押す」などの言葉は間違った使い方と言えますが、重言だからといって間違いとは言えない場合もあるということですね。
判断が難しいところになりますが、「俯瞰的に見る」という言葉はビジネスシーンではよく用いられる言葉となっており、誤用とまでは言えない表現として扱われています。
「俯瞰的に見る」は、『全体を把握するように見る』のような表現だと考えられるよね。
注意点として、誤用と言えない重複であっても、話し言葉ではなく書き言葉にすると読み手に違和感を与える場合があります。
そのため、文字にする際には重言とならないよう、「俯瞰的に捉える」や「俯瞰的な視点で」といった表現にすると良いでしょう。
俯瞰的の類語
俯瞰的の類語は、次のような言葉があります。
鳥瞰的 (ちょうかんてき) | 鳥が空の上から見下ろすように、高いところから周囲を見下ろすことを言います。 また、広く全体を見渡すという意味もあります。 |
巨視的 (きょしてき) | 物事を全体から把握することを言います。 また、人間の肉眼で確認できる大きさのものや事柄という意味もあります。 |
マクロ的 | 巨視的と同じ意味です。 |
大局的に見る (たいきょくてき) | 部分的ではなく、物事を全体的に見通すことを言います。 また、大きな立場から物事の成り行きを判断するという意味もあります。 |
総合的に見る (そうごうてき) | 様々な事柄を一つにまとめ、それぞれの事情を加味したうえで全体的に見ることを言います。 |
包括的に見る (ほうかつてき) | 全体をまとめて見るという意味があります。 |
瞰視 (かんし) | 高いところから見下ろすことを言います。 |
類語の中でも、「鳥瞰的」は「俯瞰的」とほぼ同じ意味である同義語として扱われています。
使い分けのポイントとしては、鳥瞰的は「鳥」という字が入っていることから、視覚的な意味で用いられることが多く、比喩的な意味では俯瞰的が用いられる傾向があることです。
俯瞰的の対義語(反対語)
俯瞰的の対義語(反対語)は、次のような言葉があります。
近視眼的 (きんしがんてき) | 目先のことだけにとらわれてしまい、全体を洞察する能力が欠如している様子を言います。 |
偏狭的 (へんきょうてき) | 自分だけの狭い考えにとらわれることを言います。 また、心が狭いという意味もあります。 |
一面的 (いちめんてき) | 意見や観察などがある一つの面にかたよっていることを言います。 |
仰視 (ぎょうし) | 下から見上げることをいいます。 |
俯瞰的と客観的の違い
俯瞰的と似た言葉に、「客観的(きゃっかんてき)」という言葉があります。
客観的とは、
『立場や主観にとらわれず、第三者の目線で物事を見たり考えたりすること』を言います。
俯瞰的と客観的の共通点としては「自分から離れた視点で物事を捉える」というところですが、俯瞰的と客観的では捉える視点が違います。
俯瞰的視点 | 自分や相手など、様々な面から物事の全体を見ます。 |
客観的視点 | 第三者(当事者以外の人)の立場になって物事を見ます。 |
客観的視点とは
では、俯瞰的視点と客観的視点の違いを、分かりやすく例を使って説明していきます。
まず、20代のAという人が電車に座ってしばらくすると、70代くらいのお年寄りがAの目の前に乗ってきたとします。(電車の席は空いていません)
Aは席を譲らなければならないだろうなと思いましたが、以前「年寄り扱いするな!」と怒鳴られた経験があったことで、Aは萎縮してしまい、そのお年寄りに声をかけることができませんでした。
そして、気まずくなってしまったAは眠ったふりをしてやり過ごすことにしたのです。
それを見たAのことを知らない第三者は、
・「なぜあの若者は目の前のお年寄りに席を譲ってあげないのだろう」
・「席を譲りたくないから眠ったふりをした」
などと考える人もいるでしょう。
Aは第三者と同様に、席を譲らなかった自分を客観的に見て
・「周りの人から薄情なやつだと思わているだろうな」
・「きっと、今どきの若者は・・・って思われているだろうな」
などと考えているかもしれません。
つまり、客観的視点とは、
『第三者がどう思うのかを予測すること』です。
俯瞰的視点とは
では、この電車での出来事を俯瞰的視点で捉えてみましょう。
客観的視点からするとAはお年寄りに席を譲らなかった薄情な人に見えるかもしれません。
しかし、俯瞰的視点から考えてみると、必ずしもAは薄情な人間とは言えないことが分かります。
- Aは結果的には席を譲りませんでしたが、実際Aには席を譲ってあげたい気持ちがありました。
- 第三者に分からないだけで、Aは体調に何かしらの問題をかかえていたかもしれません。
- お年寄りに席を譲るというのは思いやりの行動からするもので、Aが必ず席を譲らなければならないという規則・義務はありません。
- お年寄りが席を譲ってほしいとAにお願いしたわけではありません。
- お年寄りは席を必要としておらず、お年寄り扱いしてほしくない人かもしれません。
このような様々な視点から一連のことを考えると、Aの心情やお年寄りの心情が分からない第三者は、Aが薄情な人などと決めつけることはできないわけです。
また、第三者もAと同じように見ているだけで席を譲らなかったのであれば、Aの行動を非難することはできないでしょう。
もし、Aが「声をかけて前にみたいに怒鳴られたくないから声はかけないでおこう」と思い、無言で席を立ったとすると、
・「さりげなく席を譲ってかっこいいな」
・「行動がスマートだな」
と見ていた第三者は思うかもしれませんが、それは第三者から見た一方的な視点であり、Aの心情・お年寄りの心情は無視した思考になります。
このように、俯瞰的視点とは、
『一方からの視点だけでなく、様々な視点から広く物事を判断すること』を言います。
俯瞰力のある人とは?
俯瞰について説明してきましたが、俯瞰力(俯瞰する力)を身につけることは私達にとって大きなメリットがあります。
俯瞰力があれば、物事の流れや全容を的確に把握することができ、これからの行動や結論を正しく導き出すことができるからです。
また、俯瞰的に物事を捉えることができる人は、周りと連携したり優先順位をつけたりして業務を行うことができるため、スムーズかつ効率的に仕事を遂行することができます。
反対に俯瞰力がなければ、様々な視点から物事を捉えることができないので、
個人の主観でしか物事を判断できず、自己中心的な考えになりがちで、あまり重要ではない作業にこだわったり、周りとの連携がうまくいかなかったりして業務に支障をきたす恐れがあります。
俯瞰力を身につける方法
俯瞰力を身につけるためには、次のようなことを行うと良いと言われています。
①自分の行動を客観的視点で振り返る
自分の行動をあとから冷静になって振り返ってみると、その時は見えなかったものが見えてくることがあります。
- なぜ自分はその行動をしたのか
- なぜそのような結果となったのか(良し悪し関係なく)
- 自分の行動は正しかったのか、他にどんな選択肢があったのか
など・・・
自分の行動を客観的視点で捉えることを「メタ認知」と言います。
「メタ認知」は、『認知していることを認知する』という意味の言葉だよ。
「メタ」は、「高次(こうじ)の」という意味があるから、高い次元から自分を認知する状態を表しているよ。
メタ認知ができるようになると、感情や思い込みで行動することがなくなり、論理的で適切な判断ができるようになると言われています。
しかし、「自分は絶対に正しい」・「自分は悪くない」・「相手が間違っている」などの考えを持っていると、見えるものも見えなくなってしまいますので、謙虚な心で振り返ることが大切です。
②自分の価値観で判断せず、様々な考え方があることを認める
自分の価値観だけで物事を判断してしまうと、狭い主観の中でしか物事を見ることができなくなり、相手の意見を否定してしまいがちです。
自分は正しいと思っていても、人によって考え方は様々ということを認識しましょう。
自分の価値観を曲げる必要はありませんが、自分の価値観と違うからといって相手の価値観を否定するのではなく、自分とは違う考え方や意見もあると認めることで、視野が広がります。
また、相手がどうしてそのように考えるのかを知ることで、相手のことが理解でき、新しい見方ができるようになるかもしれません。
③何事もゴールを意識して取り組む
俯瞰力を養うためには、何事もゴールを意識して取り組むようにしましょう。
ゴールというのは、目標をいつまでに達成させるかです。
そして、目標を達成させるためにどうすれば良いのかを考えます。
- ゴールの達成日を決める
- 目標を達成するためにはどんな手段が必要かを考える
- やるべきことに優先順位をつけてスケジュールを作成する(タスク管理)
このように、目標を達成するために全体の流れを考え、把握することは俯瞰力を養うことにつながります。
もし、自分の計画通りに進まなかったとしても、
・何がいけなかったのか
・どうすれば目標に近づくのか
・今自分は何をすれば良いのか
など、改めて問題について考えることで、新たな気づきを得られる機会となるでしょう。
俯瞰の英語表現
「俯瞰」は、次のように英語で表現されています。
『objectively』
(客観的に)
『bird's-eye view』
(高いところから見下ろす・鳥瞰)
『overlook』
(上から見下ろす)
まとめ:俯瞰的には、高いところから全体を見下ろすような見方・考え方という意味がある
- 俯瞰の意味は「高いところから見下ろし眺めること」
- 俯瞰的という言葉は、ビジネスの場では比喩的に使用されることが多い
- 「俯瞰的に見る」という使い方は、意味が重複する「重言」にあたるとして間違った使い方と言われることがあるが、誤用とまでは言えない言葉として扱われている
- 俯瞰的の類語は、鳥瞰的や大局的
- 俯瞰的の対義語は、近視眼的や一面的
- 俯瞰力を養うためには、主観を切り離し、客観的に自分を認知することが必要
いかがでしたでしょうか。
俯瞰的という言葉には、広い視野や長期的な視野を持つという意味があることが分かりました。
よく、価値観の違いによって衝突が起きることがありますが、これは自分の価値観が相手に否定され、受け入れられなかった場合に生じるものです。
いくら自分の考えは正しい・正論であると思ったとしても、相手の考え方や価値観に耳を傾けるようにしましょう。
なぜならば、一方的に自分の価値観を押し付けたとしても、相手の価値観を変えることは難しいからです。
価値観を押し付け合うのではなく、お互いの価値観を認めたうえで、どういう考えを持っているかを冷静に話し合うことができれば、理解できることや自分では思いつきもしなかった考えを知ることができるかもしれません。
価値観が全く同じ人はいないことを理解したうえで、様々な考え方を知り、俯瞰力を養っていきたいものですね。
ここまでご覧いただき、ありがとうございました。