昔から、「月にはうさぎがいて、餅つきをしている」という話を聞きますが、なぜそのように言われるのかをご存知でしょうか。
「月の模様がうさぎに見えるから」と思う方が多いかもしれませんが、実はお話の起源があるようです。
また、日本以外の国では、月の模様はどのように見られているのでしょう。
そこで、この記事では、
- 月にうさぎがいると言われるのはなぜ?
- 月のうさぎの伝説とは
- 月のうさぎが餅をつく理由
- 月の模様はなぜ見える?
- 海外の月の模様
について、解説・紹介していきます。
月にうさぎがいると言われるのはなぜ?
月にはうさぎがいるっていう話を聞くことがあるけど、なぜ月にうさぎがいると言われるようになったのかな?
月の模様(暗い部分)がうさぎに見えるということもあるけど、元々はインドの仏教のお話が由来と言われているよ。
月のうさぎの起源とは
月にうさぎがいるという考えは、インドの『ジャータカ物語』という仏教由来のお話が起源とされています。
ジャータカ物語は、仏教の開祖である「釈迦(しゃか)」の前世の物語です。
仏教では、亡くなった全ての生き物は新しく何度も生まれ変わるとされています。
お釈迦様の前世は、人間や動物であったとされており、「ジャータカ物語」は、お釈迦様が前世で行ってきた善行が物語として語られる、説話集になります。
ジャータカ物語には、全547話のお話があるそうだよ。
ジャータカ物語は、仏教の広がりと共に世界中に知られることとなり、物語の内容として道徳観を学べるものや、良い教訓となるものが多かったことから、「イソップ寓話(ぐうわ)」や「グリム童話」、「アラビアンナイト」といった作品にも影響を与えたと言われています。
イソップ寓話は「アリとキリギリス」や「ウサギとカメ」、グリム童話は「赤ずきん」や「狼と七匹の子ヤギ」のお話が有名だね。
そして、ジャータカ物語が日本に伝わると、平安時代の説話集である『今昔物語集(こんじゃくものがたりしゅう)』に月のうさぎの由来となった話が取り入れられたことで、「月にはうさぎがいる」と言われるようになっていったそうです。
月のうさぎの伝説(仏教説話)とは
「月のうさぎ」の発端となった話は、『今昔物語集』では、巻5・第13話の「三獣行菩薩道 兎焼身語」というお話です。
題の読み方は、
「ミツノケダモノ ボサツノダウヲギヤウジ ウサギミヲヤケルコト」になります。
現在では、「月の兎(うさぎ)」や「月の中のうさぎ」、「月にうさぎがいる理由」といった題名のお話となり、昔話として親しまれています。
お話が伝わる中で、若干物語の内容が違う場合がありますが、ここでは、今昔物語のお話を紹介します。
今昔物語「三獣行菩薩道 兎焼身語」
むかしむかし、天竺(てんじく)という所に「猿(さる)」と「狐(きつね)」と「兎(うさぎ)」の3匹の獣がいました。
3匹は、『きっと前世で生き物を大切にせず、お金にも汚くて、人に親切しなかったせいで地獄に行き、それでも罪が消えなかったために獣となって生まれ変わったのだろう。これからは命に替えてでも良い行いをしよう』と誓いました。
3匹は仏教の修行を行い、お互いを自分の兄弟のように敬(うやま)い合いながら、自分のことよりも2人を優先にすることに努め過ごしていました。
ある日のこと、須弥山(しゅみせん)に住む帝釈天(たいしゃくてん)という神様が3匹のことを見てとても関心しました。
「獣とはいえ、とても素晴らしい心がけである。人間として生まれ変わった者でさえ無意味に殺生をしたり、他人を騙してお金を奪ったり、自分の父母を殺したり、顔では笑っていても内心は悪意を抱いていたり、恋焦がれているようなふりをして実は激しく憎んでいたりと、本当にひどい有様である。本当にこの3匹が仏の心を持っているものか正直言って信じがたい。うむ、一つ試してみよう。」
そうして、帝釈天は弱々しい老人の姿に変身し、3匹の前に現れて言いました。
「私はみすぼらしい老いぼれにございます。子供もおらず、貧乏で食べるものさえない有様です。聞いた話によると、あなたがたは慈悲深い心をお持ちだそうで・・・。そこで一生のお願いです、仏のような慈悲の心があるのであれば、私を養ってはもらえないでしょうか。」
すると3匹は、「それは願ってもないことです。すぐにでも養って差し上げます。」と喜んで老人の話を受け入れることにしました。
猿は木に登ると、栗や柿、みかんなどを取り、里へ行ってはナスや大豆、ヒエなどを取ってきて老人の好きなものを食べさせました。
そして狐は、お供物のご飯や餅、様々な魚をとってきて好きなだけ食べさせたので、老人はお腹がいっぱいになりました。
数日後、老人は言いました。
「お前さん達2匹は本当に哀れみ深い。すでに菩薩(ぼさつ)と言っても良いくらいだ。」
兎は、この老人の言葉を聞いて自分の心を励ましながら、耳や目を使って一生懸命探し歩きましたが、まだ老人に与えられるものを見つけられずにいました。
この様子を見た猿と狐、そして老人までもが、兎のことを辱(はずかし)めたり、からかったり、励ましたりしましたが、兎の役にはたたず、結局何も見つけることはできませんでした。
兎は思いました。
『老人のために食べ物を探し歩いたが、野山はとても危険だ。いずれ人や獣に襲われて食べられてしまうだろう・・・。』
そして、兎はある決心をして老人に言いました。
「これから美味しい食べ物を持ってきますので、焚き木に火をつけて待っていてください。」
それを聞いた猿と狐は、木を拾ってきて火をつけると、何か見つけて帰ってくるに違いないと期待して老人と一緒に待っていました。
そこへ兎が戻ってきましたが、いつもどおり手には何も持っていなかったため、猿と狐はひどく腹を立てました。
「お前はいったい何を持ってきたと言うんだ!想像通りの結果ではないか。お前は嘘を言って私達を騙(だま)したうえ、焚き木を作らせておいて暖をとろうとしているのだろう。憎らしいやつめ!」
兎は言いました。
「やはり私には食べ物を持ってくる力はありませんでした。ですので、どうぞ私の身を焼いてお食べください」
そうして兎は燃え盛る火の中に飛び込み死んでしまいました。
すると、老人は元の帝釈天の姿に戻り、兎のとった行動をこの世の全ての生き物達に見せるため、火に飛び込んだ兎の姿を月の中に移しました。
今、月の表面に雲のようなものがあるのは、兎が焼けた時の煙です。そして、月の中に兎がいるというのはこの兎のことであり、全ての人は月を見るたびにこの兎のことを思い出すべきということです。
ウサギが死んでしまうなんで悲しすぎる・・・。
そうだね。
でも、物語によっては、神様がウサギを生き返らせて、月の世界に住まわせたというものもあるよ。
また、ジャータカ物語では、神様がおこした火は熱くなくて、飛び込んだウサギは無事だったというストーリーだから必ずしも悲しい物語なわけではないんだ。
月のうさぎが餅をつく理由
ところで、月のうさぎのお話では「うさぎが餅をつく」というシーンは無かったようだけど、なぜ月のうさぎは餅をついていると言われるのかな?
月のうさぎが餅をつくと言われるのは、中国の神話が由来になったと言われているよ。
古代中国では、月にいるうさぎが臼(うす)を使って不老不死の仙薬を作っているという神話があり、それが日本に伝わった際に月のうさぎの話と同一視されたと考えられています。
ちなみに、中国の月のうさぎは、「嫦娥(じょうが)」という月に住む仙女がうさぎになったという説や、うさぎが嫦娥のお供として一緒に仙薬を作っているという説など、様々な説があるようです。
日本で仙薬から餅に変わったのはなぜ?
中国から日本に月のうさぎの神話が伝わった際、なぜ仙薬から餅に変わったかは定かではありませんが、下記のような説が言われています。
- うさぎが老人(帝釈天)に食べさせるために餅をついているのではないか
- うさぎが食べ物に困らないように餅をついているのではないか
- 望月(もちづき)が、餅搗き(もちつき)と結びついた
※望月は、満月の別名です。 - 十五夜のお月見では、お団子を作ってお月様にお供えをすることから、月のうさぎと結びついて臼で餅をついていると考えられるようになった
月のうさぎの模様はなぜ見える?
月にはうさぎのような模様があるけど、模様の正体は何なのかな?
月の模様の正体は、マグマが固まった跡(あと)なんだよ。
月を見ると、白く見える部分と暗く見える部分がありますが、月の白い部分は「月の高地(こうち)」と言い、月の暗い部分は、隕石が衝突してできたとても大きなクレーターで、「月の海(つきのうみ)」と呼ばれています。
月の高地は、「斜長岩(しゃちょうがん)」という白っぽい色をした岩石で覆われていますが、月の海は、「玄武岩(げんぶがん)」という黒い色をした岩石で覆われています。
これは、大昔に月に隕石が衝突した際、衝撃で月の内部から吹き出した玄武岩のマグマがクレーターに流れて固まったことで、月の海は黒くなったということです。
そのため、黒い玄武岩で覆われた「月の海」と呼ばれるクレーターが、月のうさぎの模様の正体ということになります。
月の模様のどこがうさぎ?
月の模様を見て、「どこをどう見たらうさぎに見えるの?」と思う方も多いのではないでしょうか。
うさぎの形は、下記のように見つけることができます。
こうやって見ると、確かにうさぎに見えるね!
月のうさぎは日本だけ?海外では模様がどう見える?
日本では月の模様は「餅をついているうさぎ」と言われているけど、海外ではどうなのかな?
海外でも、月の模様は様々な形に見られているよ。
日本と同じように、月の模様がうさぎと認識されている国は、中国と韓国になりますが、「月のうさぎ」の起源であるインドでは、うさぎではなく「ワニ」に見られているようです。
また、国によって様々な模様に見られていますので、ご紹介します。
餅をついているうさぎ | 日本・韓国 |
仙薬をついているうさぎ | 中国 |
ワニ | インド・南アメリカ・北アメリカ(インディアン) |
ロバ | 南アメリカ |
犬 | モンゴル |
カニ | 南ヨーロッパ |
本を読む女生 | 北ヨーロッパ |
髪の長い女生 | 東ヨーロッパ・北アメリカ |
吠えるライオン | アラビア |
編み物をしている女生 | インドネシア |
バケツを運ぶ少女 | カナダ |
木下で休む男性 | ベトナム |
薪をかつぐ男性 | ドイツ |
色々な形があって面白いね!
まとめ:月のうさぎは、インドの「ジャータカ物語」が起源とされている
- 日本に釈迦の前世の物語である「ジャータカ物語」が伝わり、様々な説話に取り入れられたことで、月にはうさぎがいると言われるようになった
- 現在では、「月の兎」や「月の中のうさぎ」、「月にうさぎがいる理由」といった題名で昔話として親しまれている
- うさぎが餅をついているというのは、中国の神話が由来とされているが、中国では餅ではなく仙薬の材料が臼でつかれている
- 月の模様は、月のクレーターの部分で、「月の海」と呼ばれている
- 世界で月の模様は、「カニ」や「本をよむ女性」、「ワニ」などの様々な形に捉えられている
いかがでしたでしょうか。
月にうさぎがいるというのは、「月の兎」のお話の中で、神様がうさぎの姿を月に移してうさぎの行いを皆に知らせ、いつでも思い出せるようにしたことが由来ということが分かりました。
月のうさぎのように、自分の命を捨ててまで相手に良くしたいというのは極端な行動ではありますが、相手のために何かしてあげたいと思う気持ちはとても素晴らしいことだと思います。
また、月のうさぎの行動には見返りを求める心は存在していません。
人は、自分が行ったことに対して見返りを求めがちになってしまいますが、仏教の言葉で「因果応報(いんがおうほう)」という言葉があります。
因果応報とは、良い行いをした人には、いずれ良い報(むく)いとなって自分に返ってくる、悪い行いをした人には、いずれ悪い報いとなって自分に返ってくるという意味の言葉です。
※いずれというのは、今世ではなく、来世(生まれ変わった後)かもしれませんのでご注意を・・・。
つまり、将来・来世の良し悪しは「自分の行動によって決まる」ということですね。
たとえ誰かに親切にしたのにもかかわらず感謝されなかったとしても、それは相手のために行った行動ではなく、自分のために行った行動ですので、相手から見返りがないからといって相手に不満を抱いてはいけません。
相手に見返りを求めてしまうと、せっかくの親切が無駄になったと感じてしまうこともあると思いますので、全ては因果応報であり、自分のためなのだと割り切って考えることが幸せな生き方と言えるでしょう。
ここまでご覧いただき、ありがとうございました。