神社にお参りに行くと、両脇に置かれた狛犬が出迎えてくれることがありますね。
石製の狛犬が一般的ですが、神社によっては金属製で作られているものがあったり、狛犬ではなく猪やうさぎの像があったりと神社によって個性があるため、中には写真を撮って色々な神社をまわるファンもいるそうです。
しかしながら、狛犬という存在を知ってはいても、どうして狛犬がいるのか分からないという方も多いのではないでしょうか。
そこで、この記事では、
- 狛犬の意味・役割
- 狛犬の起源・由来
- 阿吽(あうん)とは
- 阿吽の呼吸の由来
- 狛犬の種類
- 狛犬とシーサーの違い
- 神社に動物の置物が置かれている理由
について、解説・紹介していきます。
狛犬の意味とは?
狛犬というのは、獅子や犬に似ていますが、それとは関係のない空想上の霊獣(霊的な力が強いとされる獣)とされています。
この狛犬は神社にあるイメージがありますが、お寺にも置かれている所があり、
『神聖な場所に邪気が入るのを防いだり、魔除けとしての役割がある』と言われています。
狛犬・獅子(しし)の違い
世間一般的には2匹とも『狛犬』と呼んでいますが、実は2つを一対(いっつい)とする総称の名前で、狛犬は「獅子(しし)」と「狛犬(こまいぬ)」という別の2匹の生き物となっています。
向かって左側に置かれているのが「狛犬」で、右側が「獅子」です。
よく見ると、獅子は口を開いていて、狛犬は閉じており、狛犬だけが角を持っています。(神社によっては角がないものもあります)
神社に何度も訪れていたとしても、あまり気にして見ていなかったという人もいるかもしれませんね。
では、獅子と狛犬の違いを見ていきましょう。
狛犬
- (向かって)左側
- 口を閉じている(吽形(うんぎょう))
- 角がある
- たてがみが直毛や、緩いカールをしている
- 耳が立っている
- 怒りを秘めた表情をしていると言われている
- 色は白いとされている
獅子
- (向かって)右側
- 口を開けている(阿形(あぎょう))
- たてがみが強くカールしている
- 耳が垂れている
- 怒りの表情をしていると言われている
- 色は黄色とされている
このように、獅子と狛犬にはたくさんの違いがあります。
ちなみに、雄・雌の区別もあると言われているようですが、獅子の方が雄だと言われたり、角がある狛犬の方が雄だと言われたりしていて、場所によって様々な説があるようです。
また、実際に生殖器のようなものがある狛犬も存在しているようなので性別が無いとは言いきれないようです。
しかし、本来の神聖な場所を守るとされている守護獣としての役割を考えると、どちらも強くなくてはならないとして、両方とも雄ではないかとされていますが、これが正しいと定められるようなものではないようです。
狛犬と獅子の役割
狛犬の違いを紹介しましたが、2匹とも神聖な場所を守るという役割の意味では同じになります。
昔の人は狛犬の魔除けの力を信じていたので、調子が悪いところがあるとすぐに神社に行ったそうです。
そして、狛犬の前にお賽銭をそなえて、腰や足など自分が痛いところを撫でてお参りをし、そうすることで、痛みのもとになっている隠の力(邪気)を封じてもらい、痛みが早くとれるように祈願したと言われています。
昔は撫で牛と同じような意味合いが狛犬にもあったのですね。
狛犬の起源・由来とは
狛犬の起源はずっと昔まで遡り、古代オリエント文明が起源だと言われています。
古代オリエント文明が始まり
古代オリエント文明が栄えたのは、紀元前4千年紀頃(今から5千~6千年前)の中東の地域です。
この時代の国王は、神様や、王位の最強の守護獣とされていたライオン(獅子)を王座の肘掛けに形造ることで、強大な力を授かることができると信じていたそうです。
そのため、獅子を用いることが流行し、あの有名なエジプトのスフインクスも獅子が由来となり作られたものとなっています。
エジプトからインドへ
その後、「獅子の力を授かる」といった考え方はインドに伝わると、インドの仏像の台座にも、獅子が造られるようになりました。
釈迦如来が座る台にも獅子が造られ、「獅子座」と呼ばれているそうです。
古代オリエントの王座と同様に、獅子は守護獣として仏様を守るという役割も果たしています。
インドから中国へ
それから獅子が守り神といった考えは、シルクロードを経て中国に伝わることになります。
中国では、空想上の生き物である龍や麒麟(きりん)などと同様に、獅子にも角を生やしたり、羽をつけたりしてその姿は変化していき、唐獅子(からじし)と言われる華やかな獅子となりました。
シルクロードを経て中国から日本へ
中国が唐の時代、遣唐使によって仏教と共に日本に入ってきたとされています。
狛犬の名前の由来
「こまいぬ」の名前の由来は諸説あり、
- 魔除けという意味の「拒魔(こま)犬」
- 「狛」は中華思想では、「野蛮な異国の地」を指す言葉であったため、「野蛮な異国の犬」という意味での「狛犬」
- 中国での「狛」は本来「神獣」を表し、その姿は犬に似ていて頭には角があり、強そうな姿をしているという意味での「狛犬」
など様々ありますが、はっきりとは分かっていないようです。
また、朝鮮半島の『高麗(こま)』が由来となっている説では、かつて『高句麗(こうくり)』のことを「高麗」と書いていた時代があり、高句麗は『貊(はく)』とも呼ばれていたそうです。
さらに「貊」という字は『狛』とも書けるので、そこから高麗を『こま』と呼ぶようになり、高麗から来た犬のようなもので『高麗(こま)の犬』や、『高麗犬(こまいぬ)』と呼ばれるようになったと言われているものになります。
しかし、狛犬は中国との関係で入ってきたものであり、朝鮮とは関係がないとされていますので、この由来は『こま』という言葉から『高麗』を連想した日本人が誤って広めた誤報となっているようです。
日本文化で生まれた狛犬
日本に狛犬が伝来してから、2匹一対の獅子像は、仏教において仏様の守護獣としてお寺に置かれるようになりました。
最初は中国と同じ左右対称の口を開けた獅子像でしたが、次第に「獅子」と「狛犬」という形に変わっていくこととなります。
「獅子」と「狛犬」の誕生
なぜ、獅子とは違う狛犬が誕生したのかというと、左右非対称を好む日本人特有の文化にあるようです。
左右同じではないほうが、風情があり美しいという考えから、次第に獅子と違う生き物とされる狛犬へと形が変わっていったとされています。
そして諸説ありますが、獅子と釣り合うものとして狛犬の由来となったのが、中国の『兕(じ)』と呼ばれる水牛に似た一角の霊獣だと言われています。『兕(じ)』の像を置くと邪気を防ぐ効果があると考えられていたそうです。
また、『辟邪(へきじゃ)』という角のある霊獣も由来とされていて、古代中国の王宮の入り口や、身分の高いお墓に魔除けのため置かれていたとされています。
最後にもう一つ、『獬豸(かいち)』という霊獣も由来ではないかと言われているようで、姿は牛や、ひつじに似ているとされ、頭には長い一角のある霊獣とされています。獬豸は、中国では公正や正義の象徴とされていたそうです。
いずれにせよ、当初の狛犬には霊獣から由来した角が造られ、昔の狛犬ほど角が大きくしっかりしたものとなっているようです。
この日本独特の「狛犬」の始まりは、平安時代後期だとされています。
平安時代の狛犬文化
平安時代に書かれた『枕草子』『栄花物語』等にも登場し、宮中では簾(すだれ)や、几帳(きちょう)の重し(鎮子)として、木で彫られた狛犬が使われていたそうです。
それから、天皇への調度品や、天皇を守る守護獣としても狛犬が飾られるようになり、「神殿狛犬」あるいは「陣内狛犬」と呼ばれ狛犬は定着していきました。
平安時代には宮中で魔除けのために用いられていたそうです。
そして狛犬は、宮中から神社へ伝わっていったとされています。
仏教の影響を受け、神社に神像が設置されていたことから、守護獣として狛犬は広まりやすかったようです。
江戸時代の狛犬文化
江戸時代に入ると、狛犬は裕福となった庶民によって奉納されるようになり、屋内に置かれていた狛犬は、次第に参道の方へ置かれるようになりました。
それと共に狛犬の大きさもどんどん大きくなっていったとされています。
それまで狛犬は仏師によって木や金属で造られていましたが、一般の石工が造るようになり、石造りの狛犬が登場するようになりました。
石製としては健久7年(1196年)の東大寺南大門の狛犬が最古のものと言われています。
しかし、一般庶民や石工は実際の狛犬の姿を見たことがなかったため、伝え聞いた話や、想像で作られていたようで、個性があり、素朴で犬のような狛犬が全国に造られていくこととなりました。
特に江戸時代初期の狛犬はユニークなものが多かったので、狛犬ファンからは『はじめ狛犬』と呼ばれ親しまれているようです。
このように、江戸時代に様々な変化があった獅子と狛犬ですが、次第に伝統的な形へと統合されていきました。
それと共に狛犬の姿は獅子と変わらない姿になっていき、呼び名も両方合わせて狛犬と呼ばれるようになったとされています。
阿吽(あうん)とは?
狛犬に仏教での考えの『阿吽(あうん)』があるというのはご存じでしょうか。
狛犬で言うと、
・口を開けている獅子が「阿(あ)」となり『阿形(あぎょう)』
・口を閉じている狛犬が『吽(うん)』となり『吽形(うんぎょう)』
と呼ばれています。
では、阿吽(あうん)にはどういう意味があるのでしょうか。
阿吽の意味
インドの古くからの言葉であるサンスクリット語では、『阿(あ)』とは全ての始まり(誕生)を意味していて、『吽(うん)』とは全ての終わり(死)を意味する言葉と言われています。
そして、その二つの言葉を合わせた『阿吽(あうん)』という言葉は、『この世(宇宙)の全て』を表す言葉となっています。
”この世の全て”というのは「人生の始まりから終わりまで」のことを言っていて、
『この世に生まれて悟りを求め、永遠の安楽の世界(涅槃(ねはん))に至る』という仏教での理想を意味しています。
阿吽の由来
サンスクリット語で「阿吽(あうん)」は、「a-hum」(アフーム)と言われ、アルファベットの最初が「a」で始まり、「hum」で終わることから由来していて、日本語の「阿吽(あうん)」は、この「アフーム」の音を当て字して出来た言葉となっています。
ちなみに、日本の五十音の順番は、このサンスクリット語(梵語ぼんご)から由来してできたとされているので、サンスクリット語と同音の「あ」から始まり「ん」で終わる形になりました。
また、「ア」は口を開いて出す音で、「フーム」は口を閉じて出す音とされていて、このことから阿形(あぎょう)の獅子は口を開くことで「阿」を表し、吽形(うんぎょう)の狛犬は口を閉じることで「吽」を表すとされています。
この阿形・吽形というのはお寺を守る守護神とされている二体一対の仁王(におう)像にも造られていて、この仁王像に倣(なら)って狛犬にも阿形・吽形が取り入れられたと言われています。
このような阿形・吽形の狛犬は日本独自のものとなっています。
阿吽の呼吸の由来とは
私達が使う慣用句の中に、「二人以上で何かを行う時に、気持ちが一致し、最初から最後までお互いの息がぴったりと合う」という意味で使われる『阿吽の呼吸』という言葉がありますね。
この言葉は、阿吽を「呼吸」に例えたことに由来しています。
「阿」は口を開いて発音することから「吐く息」(呼気)、「吽」は口を閉じて発音することから「吸う息」(吸気)とされていて、この二つがぴったりと合うことで「呼吸」となる。
つまり、相対するものが一対となり役割を果していることから由来し、「阿吽の呼吸」という言葉が生まれたのだそうです。
狛犬の種類
狛犬の中には、よく見ると玉を抑(おさ)えた「玉取り」と呼ばれる狛犬や、子ども連れの「子取り」の狛犬など、付属がついた狛犬があるようです。
この付属付きの狛犬にもそれぞれ意味があるようなので、解説していきたいと思います。
玉抑え(玉取り)
前足で玉を押さえるようなポーズの狛犬になります。鞠(まり)で遊んでいるような様子から、「運気がよく転がるように」という意味合いで、『家運隆盛』と言われているようです。
玉乗り
大きな玉を抱えたような狛犬になります。こちらも意味は玉抑えと同じで『家運隆盛』と言われています。
玉咥え
開いた口の中に玉を咥(くわ)えている狛犬になります。
玉を咥えている理由は「阿吽」の考え方に由来するもので、言葉を発する時「必ず正しく世のため人のためになることだけを話す」という意味があるそうです。
子取り
小さな子供の狛犬を連れているもので、「子連れ狛犬」とも呼ばれています。
足元に小さな狛犬が一緒に作られていれ、足であやしているような姿をしていたり、乳を飲ませていたりするものもあるようです。
子取り狛犬には、『子孫繁栄』のご利益があると言われています。
上記で紹介した狛犬以外にも地域によって様々な狛犬がいるようなので神社に訪れる際にはよく観察してみて下さいね。
ちなみに、付属は阿形・吽形関係なく付けられているようです。
狛犬とシーサーの違いとは
狛犬に似た二体の置物と言えば、沖縄のシーサーがありますね。
沖縄のお土産として玄関に飾られている方も多いと思いますが、シーサーはどういった由来があり誕生したものなのでしょうか。
シーサーの由来
実は沖縄のシーサーも狛犬と同じく、中国から伝来し作られたものになります。
沖縄にシーサーの由来となる獅子が伝わったのは、狛犬の由来として伝わった時期よりも200年ほど後のことになり、狛犬とは別のルートで伝わったと考えられています。
どちらも中国獅子を参考にしたというところでは同じですが、当初の沖縄のシーサーは口の形が阿吽になっていないものが多く、その意味としても「村を守る」・「家を守る」・「火事を避ける」といったもので、狛犬よりも庶民的な信仰と結びついていたようです。
狛犬は神様や天皇など、高貴な存在を守るために置かれたものでしたが、シーサーは『災いから守ってくれる守護神』として沖縄の人々に広まっていきました。
1689年に日本で最初に作られたとされるシーサーは、沖縄本島南部の八重瀬町富盛にある「富盛の石彫大獅子」と呼ばれるシーサーで、沖縄県指定有形民族文化財に指定されています。
シーサーという名前の由来としては、沖縄の方言によって「獅子」が言い換えられ「シーサー」となったと言われているようです。また、石垣島などがある八重山地方では「シーシー」と呼ばれているそうですよ。
シーサーの特徴
沖縄のシーサーは主に赤茶色のものが多く、黒土と赤土を混ぜて作っているものになり、狛犬と比べて大きさも小さい物になっています。
また、狛犬が神社など神聖な場所に置かれているのに対し、シーサーは初期の頃は村落の入り口や、城の前に置かれていましたが、明治以降には瓦葺き屋根が許されたことで家庭の屋根の上や、門の上、玄関前などに置かれるのが一般的になったようです。
初期の頃は1体で置かれることの多かったシーサーですが、いつしかシーサーも阿形と阿形の二匹一対の形になりました。
向かって右側に置かれるシーサーは、邪気を祓うとされていて、狛犬と同様に口を開いている形となっており、雄と言われているそうです。
そして、左側に置かれるシーサーは、幸運を呼び込むとされていて、口を閉じていることで今ある幸せを逃がさないという意味もあり、雌と言われています。
神社に他の動物が置かれているのはなぜ?
冒頭でも少しお話しましたが、狛犬以外に「猪」や、「うさぎ」などの動物の像が神社に置かれていることがあります。
これはその神社の神使(しんし)とされる動物になり、守護獣である狛犬とは全く意味が違うものになります。
神使とは
神使(しんし)とは、神道においての『神様の使いとなる動物』のことを言います。
神様によって神使となる動物は変わり、変わった神様の使いとなるとムカデが使いという場合もあります。
※ムカデは福の神である毘沙門天(びしゃもんてん)の使いです。
虫が使いというのはとても意外で面白いですよね。
ちなみに、神様に対し神使は1種類だけではなく、何種類かいるそうで、全ての神様の神使を合わせると55種類とも言われています。
このように神様の使いとして神様の意志を伝える役割のある神使ですが、狐のように神使だったものが、霊的な存在として神様とは関係なく祀られるようになることもあったようです。
また、狛犬から由来して、「狛うさぎ」などと「狛」がつけて呼ばれることがあるようですが、「狛犬」というのが一つの名前であり、「狛」だけ独立して他の動物に付けて呼ぶことはおかしいとされています。
しかし、「狛うさぎ」などと狛を付けたほうが伝わりやすいことから、そう呼ばれることもあるようです。
神使の動物像のある神社
最後にいくつか神使の動物像のある神社を紹介していきます。
今年の干支のねずみがいる「大豊神社」
京都市左京区鹿ヶ谷宮ノ前町にある神社で「ねずみ」が神使になります。
「学業成就」「子孫繁栄」「無病息災」の御利益があるとされています。
うさぎが可愛い「東天王 岡崎神社」
京都市左京区岡崎東天王町にある神社で「うさぎ」が神使になります。
「縁結び」「子宝」「安産」に御利益があるとされています。
数がすごい「京浜伏見稲荷神社」
神奈川県川崎市中原区にある神社で、全国にある稲荷神社のひとつとされています。
108体の狐の像があるとされていて「商売繁盛」「五穀豊穣」「良縁祈願」など様々な御利益があるとされています。
まとめ:狛犬は「獅子」と「狛犬」という二体で構成されている
- 狛犬は中東からシルクロードを通って日本に伝わった。
- 狛犬は向かって右側が口を開けた阿形の「獅子」、左側が口を閉じた吽形の「狛犬」で、仁王像から由来し口が阿吽の形をしている。
- 平安時代、宮中で天皇を守る守護獣として置かれていた。
- シーサーは狛犬と違い、家や村を守るもので福を招くとされる。
- 狛犬ではない動物は神使と言われる狛犬とは別のもの。
いかがでしたでしょうか。
江戸時代に狛犬が庶民に広まり、想像や伝え聞いた話で全国に作られたことで、さまざまな個性のある狛犬が誕生し、狛犬はより魅力的なものになっていったことが分かりました。
個人的には「はじめ狛犬」がとても可愛らしく、岩手県盛岡市新にある「盛岡天満宮」の狛犬にぜひ会いに行ってみたいものです。
ここまでご覧いただき、ありがとうございました。