皆さんは「鯉の滝登り」という言葉に、どのような意味があるのかをご存知でしょうか。
鯉と言えば、池でのんびりと泳ぐ姿が思い浮かびますが、実際に滝登りをすることはあるのか疑問に思いますよね。
また、「鯉の滝登り」は縁起が良いと言われているのですが、どのような縁起があるのでしょう。
そこで、この記事では、
- 「鯉の滝登り」の意味
- 「鯉の滝登り」の由来
- 実際に鯉は滝を登る?
- 「鯉の滝登り」の使い方【例文】
- 「鯉の滝登り」の縁起
- 「及ばぬ鯉の滝登り」とは?
- 「鯉の滝登り」の類語
- 「鯉の滝登り」の英語表現
について解説・紹介していきます。
「鯉の滝登り」の意味とは?
「鯉の滝登り(こいのたきのぼり)」はことわざの一つで、次の意味があります。
- 『立身出世(りっしんしゅっせ)することのたとえ』
- 『勢いが良いことのたとえ(鯉が滝を登るという意味から)』
立身出世とは、社会的に高い地位につき、世の中で認められることを言います。
「鯉の滝登り」の由来
ところで、「鯉の滝登り」ということわざは、何が由来となって作られたの?
それはね、中国の故事から作られたとされているよ。
故事は、「大昔にあったとされる出来事」のことだよ。
「鯉の滝登り」ということわざは、中国の歴史書である『後漢書(ごかんしょ)』の列伝・巻67党錮列伝「李膺伝(りようでん)」に書かれている話が由来と言われています。
「李膺伝」の話では、中国の黄河の上流には「龍門」という滝があり、その下ではたくさんの魚が集まってその滝を登ろうとする中、わずかな鯉だけが滝を登り、龍になることができたとされています。
この話の
・「鯉が龍になった」
・「鯉が滝を勢いよく登っていく様子」
が『立身出世のたとえ』や『勢いが良いことのたとえ』として「鯉の滝登り」が用いられるようになった由来とされています。
ちなみに、「龍門」は中国の「山西省河津市(さんせいしょうかしんし)」と「陝西省韓城市(さんせいしょうかんじょうし)」に挟まれた黄河の上流にあたる急流のことで、滝とは、「四川省(しせんしょう)」北部にある龍門山から黄河が滝となって流れる場所のことを指すようです。
「登竜門」という言葉も同じ故事が由来となっている
実は、「登竜門」という言葉も「鯉の滝登り」と同じ故事が由来となってできた言葉です。
「登竜門(とうりゅうもん)」とは、
『立身出世につながる関門(かんもん)』のことを言います。
※旧字体の「龍」を使って「登龍門」と書かれる場合もあります。
関門は、通過するのが難しい所という意味だよ。
昔は『立身出世するために通過しなければならない関門を突破すること』を「登龍門」と言っていたようですが、現在は関門自体を「登龍門」と言うことが多いです。
「李膺伝」の中で登場する「李膺(りよう)」という人物は、宮廷で政治を司る実力者であり、李膺に認められた者は出世が約束されたも同然であったとされています。
そのため、鯉が龍門の滝という関門を突破することで、龍になることができたという話から、李膺に認められた者のことを「龍門を登る」、つまり「登竜門」と言うようになり、その後は「出世の糸口」という意味で用いられるようになったと言われています。
実際に鯉は滝を登ることができる?
ところで、実際に鯉は滝を登ることなんてできるのかな?
残念ながら鯉が滝を登ることはできないようだよ。
鯉は大型の淡水魚で、野生の鯉は流れの少ない深い場所に潜んでいることが多く、産卵期以外はあまり浅瀬には上がってこないと言われています。
一方、産卵期に入ると、水草やアシなどが分布し、水温が高い浅瀬へ向かう習性があるため、川の流れに逆らって遡上(そじょう)する鯉は珍しくないようです。
しかし、鯉の泳力はそれほど高くないため、急流を登ることはできないと言われています。
また、小型の鯉の場合、2m程度の高さまでジャンプするものもいるようですが、通常鯉に滝を登る習性はないとされています。
滝を登る魚は存在する?
ちなみに、滝を実際に登る魚は存在しており、鮭(さけ)やサクラマス(海へ出たメスのヤマメ)、鮎(あゆ)などの魚がいます。
変わった登り方をする魚では、うなぎやボウズハゼが該当します。
ニホンウナギの稚魚は、ゴツゴツした壁面や苔を利用して滝を登ることが分かっており、湿り気のある場所であれば、陸上を移動することもできるようです。
ちなみに、「うなぎのぼり」という言葉は、
『何かをきっかけとして急速に物事が上昇する様子』を例えた言葉です。
うなぎの泳ぐ速さはそれほど速くありませんが、うなぎは垂直の壁を登っていくことができるため、うなぎが上流を目指してどんどん登っていく様子から「うなぎのぼり」と言うようになったという説があります。
「鯉の滝登り」となんとなく似ているように感じますが、「うなぎのぼり」は悪い意味でも用いることができる言葉で、立身出世という意味もありませんので全く意味の異なる言葉になります。
ボウスハゼは、腹ビレと口の吸盤をつかって登るのが特徴で、パタパタと器用に登る姿はとても可愛らしいですね。
「鯉の滝登り」の使い方【例文】
一般的に「鯉の滝登り」は、『立身出世』に例えて用いられることが多いです。
それでは、「鯉の滝登り」の使い方を例文で紹介します。
- 人望が厚く努力家な彼は、鯉の滝登りのような人生となるだろう。
- 彼女は決して恵まれた環境で生まれ育ったわけではなかったが、鯉の滝登りのごとく成功を収めることができたのは、どんなに辛くても夢を諦めなかったからだ。
- 無名の新人だった彼女が次々とヒット作を生み出し、スターへと駆け上がっていく姿はまさに鯉の滝登りそのものだ。
「鯉の滝登り」の縁起とは
「鯉の滝登り」は、「立身出世」や「勢いの良い様子」を意味することから、
『大願成就・金運上昇・商売繁盛』
などの縁起があるとして、古くから縁起物のモチーフとされてきました。
鯉の大きな口からお金が入ると考えられていたようだよ。
また、「鯉の滝登り」を題材とした絵柄の中には、黒と赤の夫婦の鯉が滝を登る様子が描かれているものもあり、その場合は『家運上昇・家内安全・夫婦円満』の縁起物として大変人気があるそうです。
鯉のぼりは立身出世の象徴
ちなみに、こどもの日には「鯉のぼり」を飾る風習がありますが、これは「鯉の滝登り」の伝説から子供の立身出世を願ったものだとされています。
鯉は生命力が強く、汚れた水の中でも生きていけることから、縁起の良い魚として親しまれていましたが、鯉が龍になるという中国の伝説から、「鯉のようにたくましく、鯉が龍になるように立派に成長してほしい」との願いを込めて空高く鯉を模したのぼりを揚げる風習が生まれたそうです。
「及ばぬ鯉の滝登り」とは?
「鯉の滝登り」に対し、「及ばぬ鯉の滝登り(およばぬこいのたきのぼり)」ということわざもあるのをご存知でしょうか。
「及ばぬ鯉の滝登り」には次のような意味があります。
- 『どんなに努力しても到底達成できないことのたとえ』
- 『到底叶うことのない恋のたとえ』
「及ばぬ」という言葉は、動詞の「及ぶ」の未然形に、打ち消しの助動詞「ぬ」がついた形の言葉であり、「及ばない」と同じ意味の言葉です。
ここでの「及ばない」とは、『そこまでの力はない・力がかなわない』という意味があります。
そのため、「及ばぬ鯉の滝登り」は、どんなに頑張って努力しても鯉の滝登りのような状態にならないことに対して用いられています。
また、「鯉」と「恋」をかけて、身分の違いなどから決して叶うことがないであろう高望みの恋に対しても「及ばぬ鯉の滝登り」と言うことがありますが、本来はこちらの意味で用いられることが多かった言葉のようです。
「鯉の滝登り」の類語は?
「鯉の滝登り」の類語は次のような言葉が当てはまります。
栄進 (えいしん) | 高い地位にのぼることを言います。 |
功成り名遂げる (こうなりなとげる) | 努力を積み上げて成功し、有名になることを言います。 |
大成 (たいせい) | 大きな業績を成し遂げることを言います。 |
成り上がる (なりあがる) | 低い地位から高い地位に上がることを言います。 |
伸し上がる (のしあがる) | 他を差し置いて、一挙に高い地位に上り詰めることを言います。 |
上り詰める (のぼりつめる) | 最高の地位まで上がることを言います。 |
花を咲かせる (はなをさかせる) | 成功すること、活躍して名を上げることを言います。 |
日の目を見る (ひのめをみる) | それまで評価されなかったものが、世間に広く認められることを言います。 |
名声を得る (めいせいをえる) | 大きな物事を成し遂げて、有名になることを言います。 |
躍進 (やくしん) | 勢いよく進むこと めざましい勢いで進出・発展することを言います。 |
立身出世 (りっしんしゅっせ) | 社会的に良い地位に付き、世間に認められることを言います。 |
「鯉の滝登り」を英語で表現すると?
「鯉の滝登り」をそのまま英語にすると、「carp climbing up a waterfall」となりますが、これでは意味が通じません。
「鯉の滝登り」の意味である「立身出世すること」・「勢いの良いこと」を英語にすると、次のようになります。
『success in life』
『advancement in life』
(立身出世)
『climb to the top』
(上り詰める)
『in leaps and bounds』
(勢いが良く・怒涛の勢いで)
まとめ:「鯉の滝登り」は、立身出世のたとえとして用いられている
- 「鯉の滝登り」の意味は、「立身出世することのたとえ」・「勢いが良いことのたとえ」
- 「鯉の滝登り」は、鯉が滝を登って龍になったという中国の故事が由来とされている
- 実際に鯉は滝を登ることはできない
- 鯉の滝登りを模したものは縁起物として扱われており、大願成就・金運上昇・商売繁盛などのご利益があると言われている
- 鯉の滝登りの類語は、「伸し上がる」や「名声を得る」、「躍進」などがある
いかがでしたでしょうか。
「鯉の滝登り」は、鯉が滝を登って龍になったという話から、勢いの良い様子や、社会的に高い地位へ登ることのたとえとして用いられている言葉ということが分かりました。
ちなみに、鯉は別名「六六魚(りくりくぎょ)」と呼ばれており、背面一列の鱗の数が36枚(6×6)あることが由来とされています。
実際、鯉の鱗の数は決まっておらず、種類や個体差によって鱗の数は異なるようですが、36枚の鱗を持つ鯉が多かったことから、「六六魚」の異名がつけられたようです。
そして、龍には81枚(9×9)の鱗があると言われています。
「六六変じて九九鱗となる」というのは、中国のことわざで、「鯉が龍となる」=大きな飛躍や出世を表す言葉として用いられているそうです。
ここまでご覧いただき、ありがとうございました。